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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#05. Error 誤搬送
44/189

[16]




 別の棟に飛び込むと、そこは全くの別空間だった。

まるで集合住宅の様な造りで、馴染みある扉が点々と並んでいる。




ベージュの大理石の廊下に落ちる、淡い電球色。

ダークブラウンの木彫の壁。

程良い上質さが漂っていた。

走り抜けてきた際に感じていた薬品の様な臭いも無く、そこは、まるで自宅に入る様な生活感のある香りがする。




ターシャはそれが、余計に気味悪く感じた。

随分と静かで、警報音も無かった。






 壁を背に、恐る恐る歩き続ける。

時に後方を振り返るが、追手の気配は無く、緊張が少々解れた。




そして痛みに気付く。

巻きつけていた黒い布の裾を僅かに引き上げる。

膝が、床の摩擦により少々火傷していた。

他も所々、薄皮が捲れ血が滲んでいる。

気が付いた途端に益々疼き始めるが、構う暇は無い。






 直に、辿り着いた1つ目の突き当りの角を曲がった。

先では、微かな音と光が漏れており、角で一度身構える。

捉えられた部屋の入り口付近にバケツと、立てかけられたモップ。




その部屋からは、機械が回る様な音がする。

何か、摩擦音も聞こえる。

掃いているのだろうか。






 目を凝らしていると、フラッと現れたのは中年の掃除婦。

咄嗟に口を押え、隠れた。




 掃除婦は掃き掃除を終え、今度は廊下のモップ掛けをし始める。

ターシャは耳を欹てた。

ほんの少し覗くと―



「?」


「!」



目が、合ってしまった。




「何ぃ?その格好」



彼女はターシャを上から下まで、かなりゆっくり細かく見つめる。



「あんた大丈夫?その様子だと走ってたね。

その怪我は転んだの?そんな汗もかいて。

それでその格好じゃあ寒くて震えるね。

ここは季節関係なく夜は冷えるわよ」



そう言っては、途中だったモップ掛けをし始めた。

ターシャは隠れる事を止め、彼女に近付いた。



「あの…ここは何処…?どうやったら出られるの?」



モップの手が止まり、またターシャは凝視される。



「見ない顔だね、新人なの?若いわ。羨ましい」



ターシャは動揺し、顔を強張らせる。

返答の意味が全く理解できなかった。



「ここは従業員の住居よ。知らずに居るの?

あんたの部屋もあるでしょう。

出るんならそこのエレベーターからロビーに下りりゃいいわ」



一体それは、何なのだ。

顔がどんどん歪み、混乱が混乱を招き続ける。

目の前の彼女は、淡々と仕事を続けている。

早い手付きで、奥へ奥へモップ掛けをしながら遠ざかっていく。

そこへまた、振り返った。




「ああ、服を取りに来たんなら、まだ終わってないわよ。

あんたのじゃないね。

頼まれたんなら、こんな時間に扱き使うなって言い返しなさいよ」



そのまま顔を伏せ、掃除をする手はまた動き始める。

廊下を進みながら、彼女は続けた。



「新人だからって、何でも従わない事ね。

私の娘がそれで苦労したの。

幾ら仕事が誰かの為とは言え、自分もその誰かの内である事を忘れない事ね。

自分1人の時は、自分しか自分を守る者は居ない。

結局そういうものなのよ」



「あの」



ここの者ではないと、言いそびれてしまった。

掃除婦は、颯爽と向こうの角に姿を消す。




胸のザワつきが止まない中、ターシャは服というワードに気付き、目を見開いた。






 脇の部屋に近付くと、洗剤の香りが漂った。

時折柔らかい物がぶつかり合う音が零れるそこは、ランドリー室だった。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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