[15]
赤の警報ランプが、点々と薄暗い廊下を照らしている。
しかし誰かが行き交う訳ではなく、無人だった。
更に首を出しては、左右を確認する。
固唾を呑んだ。
喉はずっと、小刻みに震えている。
長く伸びる廊下の先は、明るい。
ドアを開け、それに向かって駆けた。
咽ると共に嗚咽も響く。
事態に心底パニックしながら、結んでいた布が落ちてくるのを押さえ、只管床を蹴り続けた。
脳裏には先程の情景が焼き付き、癇癪を起こしそうになる。
そこへ、後方から激しい解放音がした。
不意に叫ぶと、壁の赤い警報ランプに目が眩む。
視界を雑に擦り、尚も進み続ける。
ヒールの音は、徐々にこちらへ迫って来た。
間も無く、正面にガラス扉が現れた。
廊下を確認した際に見えた光は、ここからのものだった。
背後からは段々と荒い息遣いが近付いて来る。
追い付かれまいと、力を振り絞り全力疾走する。
突如漲る力は、不思議でならなかった。
まるで誰かに押されている様な感覚に陥り、ガラス扉からの光に安堵し始める。
手を伸ばし、ドアハンドルを握ると肩から全体重を掛け、押した。
隙間風が吹き込み、濡れる全身が一気に冷え、髪は激しく後方へ靡く。
向かい風に負けじと、全体重をかけ力一杯押し、身幅が確保できると勢いよく飛び出した。
数歩、前のめりによろけては姿勢を保ち、絶句する。
白い照明が両脇に等間隔で据えられ、通路を灯していた。
正面には暗いビルが立っている。
隣には、その半分程に当たる1基と、同じ高層ビルが1基聳え立つ。
彼女は1周見渡した。
今自分が居る同じ橋で、4基を繋げている。
真下を窺うと、中庭と思われる芝生と石畳の広場があった。
そこでも、点々と淡い街灯が闇を照らしている。
見た事の無い光景に、強風に揺られながら唖然としてしまう。
遥か先まで広がる真っ黒な大海原に目を疑った。
咄嗟に橋の手摺りを掴み、慄き、呼吸が小刻みになる。
「なっ…なんっ…なのっ…ここっ………」
吹き付けるビル風が寒く、足先から凍える。
肌は瞬時にザラつき、両腕を抱え身を窄めては、前屈みになる。
そこへ、緩やかなヒールの音がした。
それに目を向けると、震える足は、まだ動けると言わんばかりに大きく後退りする。
「その格好…お似合いだわねぇ…!」
追手は息切れする中、ターシャに不気味な笑みを見せ語気を強めた。
「植物人間なんて冗談でしょ!?
ありえない、何が目的?
向こうからの潜入?なら大失敗ねぇ!」
詰め寄る女の顔は汗で光り、足元からの照明で悪魔の様な形相を際立てる。
言葉に詰まるターシャは、その血走る目に釘付けになるも、後退る足はまだ、止まらなかった。
瞬時、大きく踵を返すと、数メートル程先の同じ扉に向かって疾走する。
追手は彼女の敏捷さに舌打ちするも、然程慌てなかった。
不意に白衣のポケットで振動が持続する。
鼓動が一気に高まり始めた。
相手は分かっている。
冷や汗が滝の如く湧き出ては、口から心臓が出そうになる。
もう、何の言い訳も出来ない。
止まないそれをとうとう取り出しては、震える手で耳に当てる。
「………了解…」
緊張の糸は解けた。
指示は意外なもので、秒で通話が断たれる。
女は疲弊し、膝から崩れ落ちた。
橋で根を張る様に佇み、しばらく闇夜を見上げた。
そう、どの道あのゾンビは、ここから出る事はできない。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




