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【Warning】
※人体パーツ描写
表現により、不快感を催す場合があります。
今度は先程の空間よりも僅かに薄暗いが、状況は然程変わらない。
何が鼻を突くのか、時に嗚咽が出る臭いは足をよろめかせる。
横からロボットがまたも彼女にぶち当たっては、通過する。
運搬物が衝撃で僅かに上下したが、その際に見えたのは薄橙色の生地の様な、何か。
ここはゴムに近い臭いも漂い、相変わらずの視界からもだが、兎に角吐き気を催す。
目を伏せながら、先程見渡した際に確認できた、奥の左横ドアに向かって前進していく。
「っ!」
左から箱が激突し、転倒した。
零れ落ちたのはビニール袋の数々。
黒や白、その中は妙に膨れ、柔らかさを見せる。
液体か、何かしらの固形か、分からないが脛に触れたその表面は妙に温い。
「嫌あああっ!助けて誰かっ!」
泣き叫びながらそれを蹴った時、結び目の隙間からドス黒い液が床に細い線を描いた。
それに素っ頓狂な声を上げ、滑りながら立ち上がると重いロボットの体を乱暴に押し退け、駆けた。
正面からは、セメント袋に似た物が複数積み重ねられ、こちらに向かってくる。
絶叫は轟き、それを激しく躱した際に一袋が落ちた。
紙製だった為に、ターシャの衝突した手先で切開されては、真っ白な粉末が舞う。
咳き込む中、目に留まった半端な表記の頭にはCとあった。
床一面に広がるそれが、慌ただしく動く自分の足により引き延ばされ、時に粒を感じ、痛みが走る。
入り組むロボット達を押し退け続け、対面したのはステンレス台。
その向こうには窓があり、2つの人影が見え、咄嗟にしゃがんでは目を凝らす。
複数並ぶ台に露わになるのは、部分的に仕上がる骸骨を思わせるパーツ類に、細長い木芯の数々。
更に横に目を向けると、2体のロボットが、別の袋と先程の白い粉末を巨大なステンレスバケツに大量に混ぜ、その空間を一層白く濁らせていた。
顔は引き攣り、掠れた声が漏れる。
反対側から箱が重々しく下ろされる音がした。
またも、先程見た布の様な物が引き出される。
白や薄橙、小麦色と、まるで皮膚を思わせる柔らかい生地。
両手を頬にヒステリックな叫声が上がるも、密集して作業するロボット達に吸収される。
挙句の果てに人影が行き交う窓から、生々しい手や足が一瞬、見え隠れした。
発狂しては目を伏せ、激しく床を蹴り、目的のドアに飛び付いた。
大量の手汗でノブは滑り、荒くなる息が動きを妨げ不意に前屈みになる。
そこへ、物陰が頭上を覆った。
咄嗟に顔を上げると、透明の収納ボックスを抱えたそれは接近して来る。
目がジワジワ広がり、顎が鳴る。
一纏めになった複数のガラス容器に揺れる大量の視線に、大腿が湿気始める。
「ぎゃああああっー!」
一滑りし、ドアを激しく開け放った。
ホルマリンに揺れる大量の眼球を背に、やっと現れた階段から激しく転げ落ち、踊り場に全身を激しく強打した。
ドアがそっと閉まると、すっかり辺りを包んだ闇は、一時的な安心と静寂をくれた。
嗚咽と泣き声だけが響く、狭い空間。
酷い道を通過してきたが、追手はまだ来るだろう。
体は湿り、痙攣する手足。
上手く立ち上がれない。
そしてどうしようもなく、痛い。
気付かず負った細かい傷までが、今になって疼く。
床を這いつくばっては、そのまま階段を下った。
また、ドアがある。
何階かも分からない。
下まで降りた方がいいのだろうか、追手を巻く為にそのドアを開けるべきか。
「もうっ……出してっ…」
溢れる涙で視界が一気にぼやけるが、逃げねばならない。
ターシャはそのドアに手を付き、壁にも力を加え、立ち上がる。
整わない呼吸の中、無理矢理空気を吸い込み、吐く。
そして、開けた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




