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悲鳴を上げるなり真横から1体、ターシャにぶつかる。
彼女は足の力が抜け、崩れ落ち、去るそれに震える目を向ける。
続く1体もまた、鉄棒の束を横に抱えては床に転ぶ彼女を気にも留めず、鈍く光る銀の足で只管前進し、去る。
後方のドアが派手に開け放たれた。
追手の怒りに焦燥する様を捉えた時、上がる息を整える間も無くターシャは立ち上がる。
辿々しい足取りで、大量のロボットの渦の合間を無理矢理、強引に縫い進んだ。
「この猿!止まんなさいよ!」
怒号を上げ、重たいロボット達を激しく脇に必死に退かしながら、目前の脱走者を追い続ける。
悍ましいロボットが入り組む中の突進は困難だった。
まるで流れるプールを逆走するかの様に、ロボットの進む力にどうしても敵わず、押され続ける。
それらにはまるで、自分が見えていないのか。
1つの目的に夢中になっている様だ。
気味悪い状況に震えながらも、徐々に近付く正面のドアに向かって、只管間を縫う。
顧みる余裕は無い。
しかし、罵声はすぐそこまで来ていた。
「助けて!」
不意に零れる声に、反応する者は居ない。
一体ここは何なのか。
どうして自分は、遺体だのゾンビだのと呼ばれるのか。
理解不能な事態に対する怖気は増幅する。
左から来た1体と激しく衝突し、何かが落下した。
軽い音は細かく、瞬く間に散らばる。
進路を遮る程の大きな物体を運搬し続けるロボットの群れの中、唯一それは、小さな箱を運んでいた。
またも倒れたターシャの手に落下物が触れ、目が合った。
「きゃあああああっー!」
瞳孔だけの、虹彩に色が無い目が、床一面に散らばっていた。
堪らず反射的に立ち上がると力は雑に放たれ、ロボット達の流れも他所に衝突しながら、ドアへ突進する。
乱暴に落とされた運搬物を、ロボットは丁寧に拾い始めた。
その屈んだ姿勢に追手は半端に遮られ、苛立ちは頂点に達し、鋭い金切り声を上げる。
ターシャはやっと扉近くまで駆け付けると、再び遮られる。
「どいてどいてっ!」
行く手を阻んだ運搬物は横長で、2体掛かりで通過していく。
中は金属でできた手足が嵩張り、進む軋み音と共に重い音を立て続ける。
それにまた一驚上げ、咄嗟に屈み、真下を這って潜る。
1体がそれに足を取られ、運搬物を落とした。
その拍子に相方も派手に手を滑らせ、1本の手が落ち、それが彼女の足に触れる。
涙ぐみ発狂すると、それを乱暴に蹴り飛ばした。
そのまま別の1体の足にそれが衝突すると、あっさり拾い上げられる。
「何て事してくれんのよ貴重品だってのに!」
もたもたする追手の怒号が飛んだ時、麻痺しかかる手がやっとドアノブに掛かると、四つん這いで飛び出した。
刹那、妙な薬品と異臭に自然と鼻を覆う。
出口ではなかった。
視界に飛び込んだ最悪の空間に、彼女はまたも悲鳴を上げた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




