[12]
正面の壁に突き当たる。
すぐ傍のドアノブに、咄嗟に手を掛ける。
しかし開かない。
背後から男が追い付くも即屈み、右へ突き進んでは次のドアに向かう。
「止まれ!」
その手は直ぐターシャの左腕に伸びるも、彼女は咄嗟に振り返っては大きく平手打ちを食らわせた。
僅かに指先が男の目に入り、片方の視界を乱す。
「こんの餓鬼っ!」
空いた距離を詰めようとまた太い腕が伸びる所、ターシャは歩幅を広げ、大きく躓きながらも無我夢中で駆けた。
汗は吹き出し、瞬きも忘れ、勝手に恐怖の涙が宙に散る。
「ちょっと何してんのよ!」
女研究員が金切り声を上げながら、片目を抑え頼りない足取りの仲間を追い越した。
「遺体が脱走してんのよ!
サウスの安置フロア!外に出ようとしてる!」
ターシャを負いながら、女は電話口の相手に怒鳴る。
ヒールの甲高く激しい音が、目前の脱走者を追い続ける。
走り続ける先でドアを再び見つけた。
ノブを激しく揺さぶるも、施錠されている。
「くそっ!」
堪らず激しく面を引っ叩いては、次のドアに向かう。
引いても押しても、開かない。
「ああもうっ!開いてよっ!」
涙交じりの絶叫の背後から、女が血走る目で睨みながら向かってくる。
震えは更に込み上げた。
「来ないで!」
「止まんな!」
そこへやっと手を掛けたノブが、開いた。
階段だ。
薄暗いそこを一気に駆け下りる。
ヒールの音は直ぐ背後まで迫ると、その指先は僅かに触れた。
だが、縛られ背中に密着していた布は引っ掛かる事なく躱す。
素足のターシャは速く、一段飛ばしでそのまま下り続ける。
「逃げ切れないわよこのゾンビが!」
背後からの罵声に肩が竦み、それを遮断する様に目前のドアに体当たりした。
大きく躓き、前のめりに数歩出るも、瞬時立位を保った。
顔を不意に上げた時、それらは傾れ込んできた。
「ひっ…ひゃあああああっー!」
数えきれない程のロボットが、あらゆる種類の運搬物を大量に手にし、ウジャウジャと乱雑に入り組みながら移動していた。
夥しい白光と軋み音が蠢く中、器用に隙間を見計らって此方に向かって来ては直角に曲がり、群れに混ざる。
それらが手にする箱から垣間見える物は一体何なのか。
あらゆる形の鉄素材が突出する中からは、数本の短く細長い物が取り付けられた物もまた、覗いていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




