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「何だ?」
エレベーターから下りたばかりの研究員の男女が足を止め、顔を見合わせる。
「誰か居ます!?」
彼等はその声に目を剥いては震わせ、眉間に一気に皺が寄る。
聞いた事の無い、やや疲労混じりの声。
咄嗟に駆けては、すぐ手前の廊下の角を曲がった。
突如目に飛び込んだその光景に、背筋が凍った。
妙な姿をした人間と目が合うなり、息が止まりかける。
「連絡しろ!」
怒号は震え、鳥肌が立つ。
「だ、誰にどうやってよ!?」
「何でもいい連絡しろ!」
男はターシャに駆け寄る。
それに彼女はやっと安堵の息を漏らし、縋る様に右手を伸ばした。
だが、それは激しく強引に掴まれた。
「誰だお前!?どっから来た!?」
突如揺さぶられた影響と怒鳴り声に怯み、膝から床にバランスを崩した。
予想外の展開に動揺し、目が恐怖に酷く振動する。
「遺体よ!遺体が生きてる!」
向こうでは、スマートフォンに向かって女が顔を強張らせながら叫んでいる。
「遺体…!?」
不意に聞こえた言葉が処理できず、ターシャの体は竦む。
「何でだ!?」
「痛い放してっ!」
男は冷や汗に満ちた顔で彼女の顎を引っ掴み、左右上下と強引に見渡す。
それを振り解こうと咄嗟に両手で掴みかかるが、力が思う様に入らなかった。
「最終確認は!?こんな事有り得ないだろ!」
「潜入中の奴しくじったのよ!」
その間、隙を見た。
「っ!」
2人が対処に困惑し、引っ切り無しに未曾有の事態に喚く所、ターシャは掴まれていた腕を大きく振り解く。
―危ない!―
大きく全身に響いた彼女の声に、体が反射的に立ち上がった。
ここから、逃げなければならない。
ターシャは一挙に力が漲ると、素早く踵を返し一時躓くも、廊下を一目散に逆走した。
「待て!」
男の怒鳴り声と同時に女研究員が壁の警報ベルを叩いた。
廊下の所々からサイレンが鳴り響き、赤の点滅が生じる。
ターシャは悲鳴を上げ、訳も分からず軽々動く足を信じ、長い廊下を只管駆けた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




