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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#05. Error 誤搬送
34/189

[6]




挿絵(By みてみん)




 360°から海風を受ける、開放的な水上要塞。




肌に与える僅かなベタ付きすらも心地良いと思える程に、彼は今、久しぶりに快感を静かに覚えていた。






 やっとまた1つ壁を越え、小さく一息つく。

同時に漏れた煙は、即刻流され闇と化す。




革のグローブを嵌めた左手に挟まれたそれは、そっと灰を飛ばした。

目に掛かるカーボンブラックの髪は、普段殆ど俯き、隠しがちな顔を、風に靡かせ晒している。






 祖父の代から存在する拠点。

すっかり中身も外観も豹変し、あの模範と呼ぶには嘸かし相応しかったであろう美しい組織は、消した。






 反吐が出る程下らなかった職員は、この手で変換し、配下にした。

彼等に散々従った挙句、不利益しかなかったのだ。

当然の結果だろう。






 ここの本性は知られていない。

未だ生き生きと脈打つ当時からの信頼を、国境を越えてまで利用できている。

この上辺だけの、だが鋼を思わせる偽りのガード。

任務は、優秀な部下とお手製のアンドロイドにより巧みに熟されている。






 もう、横槍を入れ、封じようとする者は居ない。

飛び込むディスリスペクトに罵倒。

時代遅れなレール。

凝り固まったルール。




それらを自らの手で払拭し、得難かった居場所をこの手で確立させた。

もう、期待する事も、理解を求める事もしなくていい。

無様だと笑われようが、どうだっていい。




才能を放ち、没頭できる環境。

利益ある逸材。

屍。

それで十分だ。






 また勝手に、脳裏で再生される血塗られた過去に鋭利な目を浮かべていると、背後で扉の軋み音がした。

僅かに流し目で反応しては、再び、目前の漆黒を眺める。

遥か遠くで点々と落ちる細微な光は、人気を漂わせていた。





挿絵(By みてみん)





「相変わらず分かりやすいわね」



レイシャは吹き付ける風の中で少々声を張り、その背に近付いていく。 






サウス屋上。

1つ下の持ち場のフロアから、ウェストとイーストに伸びる連絡橋の淡い照明が差し込む。




彼女は、彼から僅かに間隔を空けた所で冷たい縁に凭れ、煙草に火を点けた。

メディカルウェアを思わせる黒のワンピース姿。

隣もまた、スポーティーな全身黒のスクラブを思わせる姿で、今にもその場に同化しそうだ。



「明日、久し振りに1体着くわ」



彼は、ジリジリと彼女に横目を向ける。



「………お前も…相変わらずか…」



右肘を付き、手で隠された口から掠れた声が重く、緩やかに落ちる。

適度に鍛えているのか、逞しさが少々ある闇にぼやける男。

今は、どこか気の抜けた表情で、一点を見つめている。

顔と、半袖から露わになる肌からして、あまり陽光を受けてきていないだろう。



「尊厳死」



「……植物か…」



「死なせるには若い。でも決断したとか」



彼は煙草を咥えると、彼女と同じ体勢になる。



「遅かれ早かれ…人間は死ぬ……」



左手をポケットに、そこから肘上までは黒のアームカバーを着用している。

ショートの髪の隙間から僅かに光る目が、閉じる。



「回復の兆候が無ければ生命維持装置を使う責務は無い。

死なせる権利もある。

そいつは幸福だろう」



知識を放つ際の口調は、普段よりも差を見せた。



「スパゲティ症候群なんてダサいわ。

そうなりゃ私もあっさり殺してほしい」



その発言に、彼は小さく息を漏らした。



「………俺が…起こしてやる…」



ここに身を置く者の行く末を、咥え煙草のまま再び、お決まりのトーンで放った。



「なら貴方の都合のいい様にはしないで頂戴ね。

と言うか、私よりも先に貴方かもよ」





彼は黒い手に煙草を取り、顔を上げた。

連絡橋からの淡い白光は、左右に僅かに揺れた目からブルーブラックを垣間見せる。

その顔は普段、引き攣っているか、疲れているかのどちらかだった。

しかし今は、彼女の発言にああそうかと言う様に円らな瞳を浮かべ、高圧的な様も消えていた。

やがてその顔は、少々重い瞼をしてはどこか遠くを眺める。



「………いい……俺は…」



「あら、貴方こそ本当の逸材なのにね…」



彼の能力を最初に認め、付き添い続ける事を決断した彼女。

冗談の1つや2つ、そろそろ言ってみればいいものを。

彼はいつも、どこか別の所を見て、真剣に話す。






「所で、ねぇ、あの綺麗な指示は何?」



話題を切り替え、彼女は少々声高く、目を大きく輝かせては、そこの珍しい目を覗き込んだ。

解析困難なコードの仕組みを知りたくて堪らないのだろう。




彼はジワジワと横目で逸らし、重いドローを無表情で堪能する。

何かを求める際のいつもの表情は、遠ざけたくなる程に眩しい。



「…………土産を砕いただけだ…」



「あら素直に受け取るだなんて、少し丸くなったのね」



甘ったるい香りが煙たい。

ノロノロと首を傾け、視界から彼女を完全に消す。



「………お前の選別にやっと…磨きがかかったんだろう…」



すると数秒して、僅かに笑みを零した。

滅多に見せないそれからは、愉悦が窺える。



「今日は切り上げて乾杯はどう?

3つ目のゴールが達成したご褒美に」





彼女の声を他所に彼は携帯灰皿に火を消すと、首後ろを少々解しながら扉に向かう。



「向こうに出たついでに流行りの甘い物持ってきてるの、いい加減気付いてよ」



振り向きもせず、冷え切ったノブに彼は手を掛けた。



「………マインドイレーザーでいい…」



扉は低い軋み音を立て、黒い背中を消した。






挿絵(By みてみん)









MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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