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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#05. Error 誤搬送
32/189

[4]




「シャルを行かせる。日程は」



レイシャはそう言って彼女を引き止め、薄っすら笑いかけた。

相変わらず無反応だが、それも直に変わる。



「そう。なら明日。引き継いだ通りのスケジュールで」



やっと、通話は切れた。





「明日の0時にここを1号ボートで出て。

ルートパターン3の病院。

そこにいる仲間と対処して。

遺体データはこっち」



言われるがまま、シャルは付いて行く。








 持ち場は常に消灯されている。




 部屋のおおよそ半分を占める、緩やかに弧を描く防護ガラスの壁。

それに向いて、2種で1セットとなったコンピューターデスクが3台ずつ、等間隔を空けて並んでいた。




ガラス壁の向こうには別空間が広がっており、アンドロイド製造機が、コンピューターに対して同じく3台並んでいる。

青白いスポットライトが各々に当たり、仄暗い周囲には、直接触れて作業に当たる為の工具や、必要な薬品が並ぶステンレスワゴンが数台置かれている。






 レイシャは前屈みになり、キーボードを叩く。

ガラス壁の向こうで灯る青白い光と、すぐ手前の液晶から射し込む光が、消灯された空間でありながら2人の顔や姿を明確に浮かび上がらせている。



「読んで」


「ターシャ・クローディア、身長161.2cm、

体重50.3kg、中型スポーツバイク事故により頭部外傷。

遷延性意識障害と診断。その後、尊厳死が下る。

コピー」



「よろしくね。明日、無事に連れて来てちょうだい」



「了解」



低く、余裕のある冷静な声で呟かれると、彼女は去った。








 見届けてからふと、中央の席に目が向く。




移動させ易いシンプルな骨組みをしたローラーチェア。

細い革のクッションが背凭れから連なって敷かれ、勝手に上質を思わせる。





根を張った様に滅多に動かず、ここを出入りする頻度も少ない彼が、居ない。






 彼女はそこに何気なく近付くと、爪先から乾いた摩擦音が立った。




床に落ちた何枚もの用紙。

相変わらず、脳も環境も数式で散らかし続けている彼を、彼女はここの誰よりも知っている。




単なる気分転換や、酷く苛立つ時。

思い悩んでいたりするとその現象は起こる。

叩き込まれている数多の方程式を、気が済むまで連ね続けるのだ。




 因数分解や関数作成、変数変換、係数の置き換えを続け、辿り着く形に帰着させるという行為。

それをしている時は大抵、声も届かなければ、強く揺さぶりでもしない限り接触されている事にも気付けない。




 何時か、こんな事をする理由をしつこく訊ねた事がある。

自分の事は兎に角話さない彼は当時、相当鬱陶しそうにしていたが、やっと口を割った。




等号で結ばれていくその(なり)が、人間という訳の分からない生き物そのものに見えて仕方が無い、と。




 形状を変えていく数式から、そう取れる様だ。

尖っているだの丸いだの、長いだの短いだの。

線引きするだの、組を作り隔たりを生むだのと解説し、人間と引っ括める。

式によっては、こういう解という事にしよう、代数的に解けない、或いは解は無いと都合よく表現したりする。

それらの羅列はまるで、人間の思考に終わりが無い様相を表している、と。




 だから何故、そんな事をするのか。

結局、言わない。

ただ、彼はいつだってそれから目を離そうとしない。






 筆跡から見るに、始まりは突然で筆圧が濃く、乱暴だ。

そこからフェードアウトでもする様に、半ばでは優しく、終わる頃には何かを思い出したのか、別の事に思考が切り替わった様子を薄く描いている。




 レイシャは不安定なそれをじっと眺めては、その席の正面で静止する1体に視線を移した。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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