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「悪いけど立て込んでるの。1体と貴方で対処して」
新型骨格が本格的に仕上がり、部下達は、新規骨格やRの量産、プログラミング作業に掛かり切りになっていた。
新型に噛り付く博士のフォローに沿って、レイシャは収集した最新のAI技術の分析と量産を目指す為の更なる実験、サンプル製作も部下と進めている。
拠点敷地内だけで任務を熟すゼロや、一般人に近付けているRのモニターは、保安官達に任せていた。
作業の集中力が切れた彼女は、部下の作業現場の巡回にウェストに来ていた。
ほぼサウスの設備と変わらないそこには、ゼロとRの製造機が研究員用に設置されている。
詰め込まれたコンピューター室では、多くのプログラマーがタイプ音を高速で立てていた。
持ち込んだ遺体データを片手に、性格反映を只管実験し、試行錯誤している。
電話の相手からの死亡判断の流れに対し、適当な相槌や受け答えをしながら、窓越しで作業に当たる部下達を眺めていた。
研究員が起動させるRは主に、拠点で衣食住を送る彼等の生活面のサポートをさせていた。
それを通してアクション調整を行い、人間に限り無く近付けようとするが、その力量はまだまだアンバランスだった。
レイシャが不在時、調理師のRが火加減調整に対してバグを起こし、イーストに設置されているカフェが危うく火災になりかけた。
当時は流石に博士も現れ、寿命が縮まる程全員が怯んだ。
高圧的な存在は、寡黙でも十分注意喚起の効力を発揮する。
「知識は入れ直したけど、これも読んでみて」
起動し、研究員の傍で立ち尽くす調理師の男。
突き出されているのは、厨房業務やそれに纏わるリスク管理が綴じられた1冊だった。
「バーナーが必要だったから、バイオ研究所のガストーチを使ったよ」
「ちょっと何その最悪な判断!」
微生物の実験道具を調理に使うとは、どうやら衛生面もなってない様だ。
洗濯を頼んでいたRは余分に洗ったりドライヤーを回し、服の収縮が多発した。
「最近見る服のラベルはプログラムされてないわ」
「え、洗濯表示新しくなってる!?
しかも増えてる!?そこ必要!?」
定期的に生活必需品や食料の取り寄せをするのだが、最近購入した服の大半が新しいラベルに変わっていた。
材質が同じ物であれば、習得した通りに洗濯する機能を果たしており、無事に洗濯されたものもある。
漁師のRは魚の判別が悪く、食せない物まで引き上げて来る。
「食えないもんと、食いたくないもんを入れておけばいい」
中年の彼は偉そうに研究員に指示をする。
「だとしたら、おっさん。俺は魚嫌いだ。
そう言われちゃ、あんたの仕事が無くなるぜ」
魚介アレルギーの彼が言い返しながら、液晶に魚の知識を大量に映し出し、懸命に反映しようとしている。
「ならお前さん、よくこんな海の真ん中で仕事してるな。
嫌な事と向き合うなんて、大したもんだ」
「………おう…」
偉そうではあるが、いいおじさんにも仕上がっている様だ。
上層部が起動した保安官と違い、研究員が手掛けるRは一般人に近く、必要な内臓設備の数も圧倒的に少ない。
一方、バイオテクノロジー研究所の任務に付くRは、保安官に並ぶ程良い働きをする様だ。
他所の人間と対面する、敷地内で唯一の重要任務を安定的に熟している。
「元営業マンで、接客が上手い性格の反映が成功してるのよ」
「もう全員そいつで良いんじゃねぇの」
「進化を兼ねた復活ってほざいておいて、蓋を開けたら全員が営業スキルってしょぼいぜ」
そうは言いつつも成果が高い物は基準にすべきだろうと、そのRのデータ分析をする。
「なんだ、やったのあいつか。そりゃ買われるな」
レイシャは再び、廊下をフラフラ歩き始める。
そこへ、外回りの任務で使用していた薬品を戻しにシャルが現れた。
黒のレザーパンツにショート丈の革ジャケットが照明を受け、光る。
新しく埋め込まれた目を彼女に向け、立ち止まった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




