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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#05. Error 誤搬送
30/189

[2]




【Warning】

※尊厳死。

 本描写はあくまで1家族の1判断です。

※上記場面に対する発言に

 不快感を催す可能性があります。







 足はふと、石の様に佇む妻に向き、近付いていく。





そして、1つしか灯されていない明かりをもう1つ、増やした。




長い影がローテーブルに落ちるとそこには、散乱する新聞や雑誌、未開封の嵩張る郵便物。

行き届いていた掃除は滞り、白く細かい光が一面によく浮かぶ。




左手は自然と、その冷たく震える肩に触れた。

それでもまだ顔を見せる事なく、手首から伝い漏れる悲しみを見ては隣に腰掛け、抱き寄せる。




「せめて何か飲んだらどうなんだ……」




そんな事を言いたい訳ではなかったが、切り出し方が分からない。

引き寄せる手は、微かに震えている。

その腕の中で、髪を乱したままの彼女は首を横に振る。





 不可逆的な状態に陥る娘にできる最大の事は、ほんの僅かに残る回復の可能性、つまり奇跡が起こる事を信じて積極的な延命措置を続ける事。

もしくは、それを止める事の2択だ。





 夫の指先はそっと、妻の乱れた髪を梳かした。





彼女は、本当は分かっている。

彼が何を考えていて、何に迷い、悩んでいるのかも。

しかし、自分が悪魔の様に思えて心底嫌になる気持ちが勝り、一声も出ないのだ。

助けたいのに、回復の見込みがほぼ無いと言い渡され、ならば次に出来る事は目に見えている。

自分はあの子の母親で、今の状況と誠心誠意向き合う義務がある。

隣にいる彼もまたそうである。





 早い段階で遺書を書く文化。

娘はそれを理解し、それを遺す年齢にまで至った。

勿論まだ、どこかあっけらかんとし、駆け出しの大人を匂わせている様ではある。

昨日、とうとうそれを読んでしまったのだ。




「あの子は……あの子はまだ……若いのよ……」




不意に漏れる声に彼は目を見開いた。

そしてやっと、ずぶ濡れの顔が露わになる。

その目は酷く腫れ、赤く、唇は震えていた。




 彼は、妻の顔に纏わりつく髪を丁寧に取り除いては、抱きしめた。

まだ若い、まだ若いと言い続ける彼女を、崩れないように支え続けた。




「僕はな……」




やっと間が出来た所で、口は開いた。



「ターシャと同じくらい……君の事も愛してる……」



泣きじゃくる声はまた、肩で一気に溢れ出る。



「……そんな姿の君を…ずっとは見ていられない…」



背中に、悔やみながら爪が立つ。



「僕達はあの子を…懸命に育てて、愛してきた……

この先もそれは変わらない……」






 揺れるカーテンはその空間をそっと覆い被せ、灯をぼやけさせる。

それはまるで、そこで悲痛に濡れる2つの心の複雑さを描いていた。

この感情を止める為の線や壁が欲しいのに、無い。

どこまでも広がろうとするそれに、もう、自分達で区切りを作らねばならないのだ。




殺すのではない。

苦しむ時間を短くさせる。

それもまた、1つの愛と表現していいだろうか。

崩れ落ちまいと、この断崖絶壁から彼等は這い上がろうとする様に、ただただ強く抱き合い、手を握った。























































 「あらそう、殺しちゃうの」



電話の相手は、向こうでの任務中の部下。

遷延性意識障害の診断を受けた患者のデータは、以前に共有されていた。

近々、判断が下る兆候があったからだ。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 嗚呼!!ターシャ!ターシャ!ターシャ!←また叫んでるww [気になる点] ターシャぁあああー!!に、決まってるww←最早ターシャ狂w [一言] あるんだよね。 例えば今作の例じゃなくても、…
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