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【Warning】
※尊厳死。
本描写はあくまで1家族の1判断です。
※上記場面に対する発言に
不快感を齎す可能性があります。
※7/2(2日目)に渡って投稿します。
あの轟々たる嵐の中で起きた惨事。
悍ましい姿でターシャは発見され、集中治療室に搬送後、命を取り留めた。
だが、もう彼女が目を覚まさないまま3か月が経とうとしている。
遷延性意識障害。
自力での移動、摂食、排出ができない上、最も強い刺激を与えても声を上げる事も無い、植物状態である。
時に目を開け僅かながらに反応を示しても良いものの、彼女はそれをしようとはせず、まるでこの世界から身を閉ざした様に眠り続けている。
一方、彼女に突っ込んだ中型スポーツバイクのドライバーの行方は未だ分かっていない。
22歳の青年の行方不明情報は瞬く間に広がったが、手掛かりは掴めなかった。
当時は海流も早く、難航続きの捜査も打ち切りになった。
両家共々、失った我が子を、変わり果てた我が子を受け入れられず、地獄の日々を送っていた。
静寂の夜。
隙間風は冷たく、リビングではオレンジの明かり1つが虚しく灯る。
ソファーに腰かけ、顔を両手に突っ伏したまま、妻は声も発さずに泣いている。
仕事も強引に辞め、ただ娘の世話に明け暮れているが、傍や自分の事や家の事は置き去りだった。
あの笑顔を見れないまま、活気ある声を聞けないまま、時は嫌味の様に流れる始末。
娘の病状は、そうなるとまず、奇跡でも起きない限り覚醒する事は無いと言われている。
それでも、何年も、何年も向き合い、世話をする者も居る。
しかしその選択には、あらゆる経済事情も環境の変化も絡む。
何より大きいのは、今、自分自身を保てていない事である。
窶れ、疲れ果て、無理にでも僅かに睡眠を取れば必ず笑顔の娘が出てくる。
それ故に眠る事が恐ろしくて堪らず、震えている。
娘の声が今にもそこから聞こえて来そうで、誰も居ない場所へ走ってしまうようになるのを幾度となく夫に止められてきた。
それを横に、夫は立ち尽くす。
暗いダイニングで、物陰の一部になる様に妻を眺めていた。
彼もまた、仕事を休んでいる。
しかし、それを続ける事は厳しい。
何かを考えようにも、未だそれどころではない。
見るからに弱り、妻は、枯れ行く植物の様になりつつある。
それがもう、耐えられなくなってきている。
冷静に話しをする前に、このままだと鬱になるのではないか。
もしそうなれば、2人をどう守るべきか。
どう支えるべきか。
視線はふと、ダイニングの食卓に重く落ちる手の甲に向く。
また、少し痩せた。
ここで、日差しを受けながら朝食を取っては笑い、ネクタイを指摘された時間が蘇ると、勝手に視界が潤んでいく。
今や調理する音やその香りもしなくなり、代わりにインスタント類のゴミが増えた。
出し忘れたそのゴミもまた、シンクに散乱している。
ここ最近、彼は、自分が心底残酷で、悪魔ではないかと思いながら考えてしまう事がある。
切り出せていないそれはもう、今、顎まできている。
生きるとは何か。
正しい判断とは、何か。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




