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【Warning】
※遺体解剖、防腐処理、スタッフの発言に
不快感を催す可能性があります。
数分が経過すると、浸漬用タブが遺体の真横に運ばれた。
カウントに合わせ遺体が持ち上がると、慎重にそこへ沈められる。
その間、洗髪作業が手早く加わった。
周囲は徐々に、器具類等全体の片付けに入る。
「美容師噛っててよかったわ。
死体は喋らないから楽」
浸漬の流れで頭髪と頭皮、洗浄が行われた。
忙しない音は徐々に引き、退散するスタッフも見られる。
「そういやこの子、何者なの」
薬品がシリンジに採取され、引き上げられた後に注入する準備をしながら元薬剤師が訊ねる。
「さっきスマホがあった。ハイテクな坊やだな。
あとIDも」
転落したのは身1つだけでなく、小型のショルダーバッグもあった。
私物を雑に、洗い浚い取り出しては確認していく。
「ルーク・ルブラン、22歳。
おっともうすぐで23歳か。
3か月後に順調に新型に生まれ変われたら、画期的な誕生日だ」
そのまま男は記録をコンピューター上にデータ化していく。
その後データを搾り取られた私物、及び連絡手段となるスマートフォンは、基盤を複数個所破壊し、ビニール袋が敷かれた段ボール箱に一纏めにされた。
その横でラップトップが閉じる音がすると監督は立ち、ドアに移動する。
「10時にトップへ上げる段取りで進めろ。
ある程度の処置が済んだら残りは朝入りに引き継げ。
ここに居るスタッフは午後に回って持ち場につけ」
部屋のドアが開いたかと思うと、ゼロ3体が私物の傍にやって来た。
それと入れ替わりに監督が去る。
「ほらよ。処理は頼んだぜチビちゃん」
大量に入った除去物や所持品を無言で受け取ると、金属音を軋ませながら踵を返し、退室した。
「やったぜ、午後まで自由なら飲める!」
「いいけどバイオ研究すっ飛ばすんじゃないわよ。
次の提出ファイル、まだ出来てないでしょうが」
「ああ?心配すんな、あんな片手間の任務。
これから来る奴等に出すのはもう出来てある」
「もう酔ってるようねぇ、当たり前な事を踏ん反り返って言わないで」
メインであるアンドロイド製作とは別に、彼等はバイオテクノロジー研究も行う。
今や拠点内の副業にあたるそれは、抜きん出た科学者と専門職の組織にとって、片手間と表現する程度の任務だった。
しかし、それは古くから存在するこの拠点の原型であり、今ではガードとして役目を果たす重要任務。
決して疎かにはできない。
苛立つ彼女は以前、そこの彼にシフトをすっぽかされた事から面倒臭そうに釘を打った。
朝入りの解剖班及び製造班の負担を考慮し、できる限りの作業を終える。
新型対応。
新規パーツは顔面であり、博士が実行する。
しかしそれ以外はR製作と同様につき、部下が彼の前で作業をする。
新規作業につき、どれ程の時間が割かれるのかは未知数だ。
彼とは初対面以来、殆ど顔を合わせていない部下が多く、精神面の負荷が大きい。
「搬入班の連中の顔が見てぇ!」
面白がる声の向こうでは、使用済み器具の処理と点検が行われていた。
遺体を扱う事により予測される感染リスクを避ける為、扱った器具類全ては高圧蒸気や紫外線照射、グルタルアルデヒドを含む薬品の希釈液に一定時間浸漬させる。
片付けの殆どが済み、部屋は消毒液の香りが濃く立っていた。
そんな中、ビニールシートが仕込まれた納体袋が担架の上に広げられている。
浸漬作業を終え、2人掛かりで遺体が引き上げられると、脇で待機していた別の2人に引き渡される。浸漬用タブが早々に引かれ、入れ替わりに待機していた担架が寄る。
慎重に、丁寧に水分が拭き取られると、それを隣の担架にカウントと共に移す。
保湿剤が手早く塗られ、ビニールシートでそっと包んではジッパーが閉じられた。
その後、上から更に黒のシーツで覆われる。
「やれやれ、本当とんだ土産ね」
部屋は奥から順に照明を落とされ、担架が廊下に出たと同時に怒涛の時間は閉幕した。
ドアを施錠したスタッフが納体袋に駆け寄ると、奥の安置室へ進む遺体にBIOHAZARDステッカーが叩きつけられる。
「お先」
「後でね」
スタッフ2名が足早に安置室へ消え去る。
先に退散するスタッフは、着用していた防護服等を盛大に脱ぎ、でかでかと欠伸をしては体を伸ばした。
【Warning】3投稿にお付き合い頂き、ありがとうございました。
お届けしました技術・施術シーンは本章限りです。
本シーンは、ある遺体が本技術を施され未だ安置されている事に基づき、資料に沿って、本作風に仕上げたものです。
これを踏まえ、引き続き歪んだ物語をお楽しみ頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




