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【Warning】
※遺体解剖、防腐処理、スタッフの発言に
不快感を催す可能性があります。
※6/30(3投稿目)まで、本現場シーンは続きます。
※3投稿目の描写はほぼ和らぎます。
ご不安な場合、こちらに合わせて戻って来ても
良いでしょう。
同時進行で行われる作業は手早く、見るに無残だった遺体からは血が殆ど拭われていく。
端では傷口の縫合作業が執り行われていた。
「そろそろ仕立て屋になれちゃうわ。
あまり酷い部分はタトゥーなんか入れてみる?」
「皮膚を縫うだけじゃもうつまらねぇってか」
元皮膚科医の女の呟きの向かいで、元整形外科医の男は、砕けた骨を次々と雑にアルミプレートに打撃音を上げながら応答する。
4枚目のそれは間も無く5枚目に移ろうとしていた。
背後では、監督の話し声が聞こえ始める。
「ああ、あっさり空になる。
とは言ってもこんな時間だ、そっちへ上げるのは、
午前入りに残りの除去作業をさせた後だが」
電話口からは重く、疲労で掠れた声が零れていた。
フラフラした声からすると、寝ていたのだろうか。
「ではそれで。
補佐官ならもう顔を見せないだろう。
酷い容姿だった」
不意に聞き取り辛くなった声に眉を顰め、指で片耳に栓をし、声に集中する。
「まぁそう言うな。
こうまでなると屍に目が無くなるのも無理無いだろう。
……顔面はそう傷ついてない」
大方、半端に仕切るくらいなら回収して来るなといった所か。
彼はレイシャを挟まない部下とのやり取りが、時に億劫になる事がある。
事情を知る監督は、作業現場に目を向けながら、通話をそっと意識している。
「……では明日。
トップ、いい加減顔出さないと、皆あんたを忘れるぞ。
たまには仲間に話を聞かせてやったらどうなんだ」
数秒の間が空き、微かに漏れた息の後、通話は断たれた。
相変わらずだ。
だが、無理もない事である。
監督は短く溜め息をつき、現場に目を向ける。
「新規骨格を入れる判断が付いた。
悪いがもう一仕事頼む」
「それが良い!」
判断待ちの間、半端に進行していた内臓除去班及び縫合班は、目を輝かせた。
「一気にいくぜ」
元外科医の男がメスを胸部に一線素早く走らせたが、即座に止められる。
「ちょっとちょっと何してんの馬鹿!
広く開くのは背部!
その次が頭部で胸部は手が収まる程度だって!
ああもう…」
「お前がやるとフランケンシュタインの誕生だな!」
笑いながら通過する男もまた元解剖医。
その手には大量に盛られた除去物の銀プレート。
「あー目は私にやらせてね」
手からはメスの鋭い銀が放たれる。
「眼科医ってのは目玉オタクか?
そんなに好きなら部屋一帯ホルマリン漬けしたやつ並べとけ」
「そーんな事したらピクルスと間違えるでしょっ」
彼女は眼窩に触れては瞼を開き、処置を施し始める。
高々と鳴り続く吸引音が響くと同時に、防腐液が浸漬用タブに溜められる液体音が入り組む。
スピーディー極まりない作業は、早くも折り返し地点だ。
頭部に集まるスタッフはペンライトで目の特徴を念入りに調べ、カルテと写真に納めていく。
アンドロイドの目は白光を持っており、それを覆う為の義眼製造のデータ収集作業。
如何に実際の目に近付けるかは、既に研究済みだ。
摘出された実物はダミーに回る。
直に義眼製作班から薬品班に入れ替わり、遺体の頭元には小さなステンレスワゴンが到着する。
そこにはまた、組織が開発した常在菌保持用の薬品が並んでいた。
数種類の試験管と、同様の形をしたプラスチック容器の中で液が揺れる。
それを複数の輸液バッグ、並びにスプレー容器に移されていく。
「最後の晩餐は何だったか。
このカスじゃ分かんねぇ。
歯並びは割と模範だな」
口内の確認をする元歯科医は抜歯を始め、歯牙保存液に細々音を立てながら放り込んでいく。
この保持薬品も彼等の開発品である。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




