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【Warning】
※遺体解剖、防腐処理、スタッフの発言に
不快感を催す可能性があります。
※6/30(3投稿目)まで、本現場シーンは続きます。
※3投稿目の描写はほぼ和らぎます。
ご不安な場合、こちらに合わせて戻って来ても
良いでしょう。
防腐処理班、解剖班の元に運ばれた納体袋は、酷く雨と血に濡れ担架を湿らせていた。
処置室一帯は青白い照明がその場を明々と照らしている。
それを受け、立ち並ぶステンレス製の薬品棚からは燻みが放たれている。
慌ただしい足音や衣服の摩擦音。
防腐剤注入の準備に向け、シリンジが次々解放され、その先端のキャップが外されていく。
薬品の瓶同士が接触し合うクリック音の連鎖。
その奥ではピペットで採取されたそれらが別の容器に数滴滴り、調合される。
複数の輸液バッグが雑に出されると、その中に仕込む組織が手掛けた細胞の保持効果がある薬品が、次々準備される。
顔にほぼ綺麗に密着し、隙間を一切見せないマスクに防護グラス。
そこに真っ青な防護服を纏った複数の元専門スタッフ達は、まるで分身の様だ。
当然、彼等は互いの把握ができている。
部屋の中央でジッパーの音が響く。
点々と服から骨が突出した遺体が現れるなり、軽い口笛が鳴った。
「本当に死に立てほやほやだな」
言い終わりにバイクジャケットは盛大に開かれ、中の衣服も一気に切り裂かれる。
剥き出た箇所は、周囲の肉も酷く抉り出していた。
「バッキバキじゃないのよ。
これこのまま骨格入れちゃいたいわね」
「新しい骨格試せばいいのにな」
「まだ100%じゃないでしょ」
「いつトイレや飯に出てるかも分かんねぇ程噛り付いてんだぜ?
絶対出来てんだろ」
「てゆーか若っ!何ぃ?
若い子の自殺が向こうでは流行り?」
「やあだ超イケメン!
ジェレクみたいにクールに粧し込んで差し上げましょうか」
元解剖医と元外科医の連なる発言の最後に言い放ったのは、元化粧メーカーの薬剤師。
目が半開した遺体の顔を医療用手袋越しに撫で、目に異様な笑みを浮かべている。
「冗談抜きにして、本当に骨格入れていいかも。
補佐官に確認して」
そこへドアが激しく解放された。
「無駄だ。今は不機嫌で連絡が取れない」
同じ格好をした背の高い男がそこに加わるなり言うと、遺体に淡々と触れながら、ほぼ目だけで確認していく。
粉砕骨折と開放性骨折が酷く、皮膚の縫合に時間を要する箇所も少々見受けられた。
横から駆け付けたスタッフは、慣れた手つきで血液と内臓の吸引を始めている。
「じゃあ監督、直接聞いちゃいます?」
壁に設置された内線の受話器を片手に指示を仰ぐ女は、元エンバーマー。
突如現れた男は、補佐官の次に長く携わる現場監督。
彼もまた、元解剖医でありエンバーマーだ。
彼は彼女を振り返り、頷く。
「生きてんのか怪しいぜ」
その端で遺体洗浄に当たりながら呟くのも元解剖医。
「生存確認開始」
遺体の数箇所に射し込まれた管から延々血液が流れ、放たれる吸引音に、気泡音が時折混じる。
滅多に姿を現さない博士はここのトップであり、ルール。
最後に見たのは何時だったか、思い出すのに時間がかかる。
内線の呼び出し音は、精神が億劫になる程長かった。
彼は、出ない。
苛立つ彼女は、受話器の背を人差し指で忙しなく叩き続けている。
「さぁメジャー取って。さっきの続き、記録取って。
四肢と胴体、末端、指の幅、顔面、何から何まで測り倒すわよ。
それと顔面詳細はトップにすぐ上げなきゃだから段取りして」
片や、瞼が剥く様に開かれてはペンライトが光る。
「まぁ綺麗なスカイブルーよ…」
「俺好み」
「は?私の坊やなの。ホモは引っ込め」
「阿婆擦れが。時代遅れも大概にした方がいいぜ」
続く罵倒のラリーは不意に監督の手で扇がれ
「こうも損傷が激しいとはな。
海に落ちたんなら念の為、終いに生物災害ステッカー貼っておけ。
おい繋がったか?」
「無反応です」
「もういい切れ」
監督は少々強めに放つとスマートフォンを取り出し、再び博士にダイヤルする。
内線を握っていた彼女は乱暴に受話器を掛けると遺体の元へ戻った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




