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左目の防水パッドを剝がし、それは晒された。
元々薄緑の瞳を持つ彼女。
しかしその眼球は根こそぎ失われ、青白い小さな光だけが奥で灯っている。
レーザー発射実験失敗により皮膚が小破し、傷口はまるで千切れたジェルの様な見た目になっていた。
金属骨格が眼窩に沿って露出しており、本来設置されている眼球パーツを取り付ける為のベース部品は、実験器具装着の為に取り外されていた。
レイシャはまたも項垂れ、溜め息をつく。
シャルはそっと防水パッドとサングラスを戻すと、真っ暗闇に染まる進行方向に顔を向けた。
出発して5分経たない頃、2体は察した。
右側からの違和感に突如振り向く。
先に伺える海沿いの道路で衝突音が轟き、大きく火花が上がった。
それと同時に物陰がガードレールを乗り越え、落石の如く激しく崖を強打しながら転げては、海に落下した。
「ちょっと何よ…」
レイシャは突然の光景に顔を顰め、睨む。
するとボートの速度が急激に落ち、レイシャはその反動で床に転倒した。
「ジェレクいい加減にして!」
「どうする」
コックピットから離席し、彼は後方の乗車スペースの縁まで移動しては、現場を凝視する。
隣でシャルも同じく、無言で状況を眺めていた。
「高さ約56m。
この悪天候による道路コンディション不良、視界不良。
幅員約7m。
カーブが続く環境にこの条件で加速度の考慮無し。
複数の注意標識のシカト。
時間帯都合から人通りほぼ0である故の油断ダダ漏れ。
時速50km強と自由全開な運転。
結果、人体、ガードレールに突っ込むだけでなく、
てめぇも落下し開放性骨折だけに留まらず。
自殺行為だ。これを馬鹿と判断する」
「ガードレール付近に人体の影」
2体の話を耳にレイシャは苛立ちながら身を起こすと、縁からそこを覗いた。
煙が雨に紛れて上がり、時に火花が垣間見える。
「どうする」
2度目の催促でレイシャは立ち上がった。
「何、回収?」
「それ以外に無い。
俺達の任務は拠点一帯の安全保持、
新規アンドロイドの点検にコンディション維持対応、
外部からの遺体搬送、
海洋バイオテクノロジー研究所成り済ま」
「ああっ!
分かってるわよこっちが指示してるんだから!」
ズラズラといい加減にしてもらいたい所だ。
彼女は短く怒号を上げ、彼を黙らせる。
ジェレクが一点を見つめたまま静まると、シャルが口を開いた。
「複数の激しい骨折に打撲、それに伴う出血。
そして浸水、呼吸困難…意識不明…心肺停止…
……死亡」
「目撃は」
「無人。カメラ無し。
現在の時間と天候事情から人が現れるのはまだ先だ。
事故発生から僅か2分数秒経過現在、転落者は死亡。
海流速度は早い。回収条件一致だ」
ジェレクはそのまま一杯まで上げ切ったレインギアのジッパーに手を掛けると静止する。
レイシャは数秒考えた後、右口角だけを僅かに上げ、スマートフォンを取り出した。
「とんだ土産ね」
豪雨が叩きつける中、画面はドットが点滅する。
「悪いわね、チーム叩き起こして。
道中の交通事故で山から落ちた人間の死亡が確認できたから回収する。
ゼロ4体、研究員4名ゲートに配置して。
ああ後、今後の製作スケジュールも見ておいて」
通話の最中、2体は彼女に顔を向けていた。
互いに目が合うと、レイシャはジェレクに頷く。
その後シャルの左腕を軽く掴み、マイクの位置を僅かにズラした。
「貴方は運転して」
彼女は指示通りコックピットに向かう。
視線で指示を受けた彼は、厄介なレインギアを脱ぎ捨てた。
「事後報告でいいのよもう。
どうせ貴方達との連絡も碌に取ってないんでしょう。
放っときなさい。到着は―」
レイシャはシャルに視線を向ける。
「引き上げてから約25分。場合により遅れる」
「…2時前ってとこね」
シャルが算出した到着予定時刻を伝えた後、通話を切った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




