表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#03. Data 闇
21/189

[6]





……


………




 雷鳴と共に飛び起きた。




大量の汗が全身から滲み、酷い頭痛が襲う。

泣き腫らした目に触れる指先は震え、そこから涙が伝った。

早い鼓動に合わさる息遣いが、土砂降りの豪雨の音と共に部屋に響いている。 




 時々、白い雷光が部屋を照らし、巨大な音を轟かせた。

しかし、そんな音や環境を他所に、涙で濡れた顔を乱暴に拭うと、ベッドから激しく飛び出した。





 体はフラつき、真っ直ぐ歩けない。

乱れる呼吸は当時をより蘇らせ、心臓は今にも悲痛で破裂しそうだ。

そこに、親友の笑顔の残像がチラつく。



「っ!」



部屋のドアの前で膝から崩れ、頭を振った。

俯き、彼女の映像を消そうと更に横面を叩く。

こんな事なら墓地に行くのではなかったと、後悔してしまう。





 壁を支えに立ち上がるとドアを開け、階段の手摺りに掴まっては、震える体と手に目が留まる。

只管、求めない動きを取る自分の体に心底恐怖した。

そんな中、まるで崖を伝う様に階段をそっと下っていく。

リビングのカーテンの隙間からは、雷光が時々入り込み音を放った。



「熱い…」



汗を拭う。

勝手に、どこか冷たい場所を求めてしまう。





 下りて来るなり不安定な足取りで、玄関に向かった。

かなり酷い嵐だがきっと、自分を洗い流してくれるのではないか。

右手が、鍵とチェーンロックを解除しようとする。

そこへまた、あの笑顔が浮かんだ。

しかし次は、あっさり消えていくではないか。



「どこ……どこに居るの……どこに行くの……」



闇に溶けると共に寂寥が襲う。

震える手が未だチェーンロックを解除できず、焦燥感に駆られ乱暴になる。

そしてやっと、金具が音を立て解除されるや否や、消えゆく彼女を追って激しく、雨の中へ身を投げ出した。






 空咳を零し、四つん這いに泣き崩れる。

またも事故の瞬間が再生され始める。



「ああもう止めてっ!」



頭を抱え立ち上がると、呼吸を乱したまま家の敷地外まで強引に駆けた。

熱から解放され、僅かな肌の癒しを豪雨は与えるが、まだ足りない。






 暴風が時折吹く、嵐の真夜中。

段々、何から逃げ、何を追っているのか分からなくなる。

靴も履かずにただ、鉛の様なアスファルトを蹴り続ける。

厚い雨水の膜を張る道路に落ちる小石を踏んでも、痛みを感じない。






挿絵(By みてみん)




 当ても無く走り続け、訪れたのは海沿いの山道。




脇に広がる漆黒の上で、細い稲妻が深夜の空を四方八方に破る。

後に雷鳴が轟いても、駆け続けた。





 傾斜が徐々に疲労を呼び起こし、その影響で冷静さを取り戻し始める。

服は雨を吸い、肌に密着して重い。

海側に立つガードレール沿いでやっと立ち止まり、バランスを崩しては道に数歩出た。



(ああ……帰ろう……)



熱が冷め、自分の行動を疑ってはやっと、そう思えた時―






 視界が、僅かにオレンジがかった白光に覆われた。






刹那、凄まじいスリップ音にブレーキ音が高鳴る。

更に物体同士の衝突音が轟く中、肉と骨が砕けそうな程の衝撃が重なると、全身を迸った。

体は数回地面を弾き、ガードレールに頭部から激しく衝突。

一帯が、砂嵐から闇と化す。

猛烈な激痛は意識を瞬時遠ざけ、生温い何かが、顔や体を伝った。











 

 しばらく時間が経過してしまった後、暗い鉛の傾斜を伸ばした山道が、サイレンの音と共に赤々と染まる。





 ガードレールには、前方が大破し歪んだ中型スポーツバイクが煙を上げていた。

その傍で意識喪失し、血を流すターシャを、救急隊員がタンカーに乗せる。

たまたま道を下って来た車両の運転手が通報を入れたのだ。





「ターシャ!ターシャしっかりしろ!」





 両親は、自宅から娘が居なくなっている事に気付き、辺りを探し回っていた。

そんな中、騒がしいサイレンの音にまさかと思い、疑いながらも現場へ向かった。

そして、信じ難い光景が目に飛び込むなり、父親が必死に娘の名を叫ぶ。






しかし、彼女が目を開ける日は中々来なかった。
















MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 嗚呼ー! [気になる点] 嗚呼ー!嗚呼ー!嗚呼ー! [一言] ターシャ…あんなに、大切に想っていたのに。 ターシャ…←衝撃波が止まらないってw 僕のターシャがぁぁああーーっ!←勝手にw …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ