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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#03. Data 闇
20/189

[5]





……


………




「ちょっと飛んでったらどうすんのよ!」



「渉ったら仕舞う!」



ターシャは仕事の資料を片手に、横断歩道に向かって走った。

カウントダウン表示は、半ばを通り越そうとしている。



「待って!私スニーカーじゃないんだから!」



普段穏やかな高い声を、アマンダは忙しなく放ちながら必死にターシャの後を追っていた。

花の装飾が細かく光るベージュのパンプスに、真っ白なロングスカートは、まるで人形を思わせる程だ。






 横断歩道に入ると、前方から来る人との衝突を避けながら進む。




ターシャはふとアマンダを振り返ると、男性と肩をぶつけた。

それは激しく、手にしていた資料が瞬く間に道路に散らばった。



「うわ最悪!」



「もう言わんこっちゃない!」



慌ててしゃがみ、2人は必死になって資料を掻き集める。

しかし衝突した男性は、何も言わず立ち去った。



「何あいつ!1枚くらい拾ってよ!」



「もういいから!信号変わる!」



彼女は手にした束を持って立ち上がり、ターシャを急かす。






 渡り切ると同時に自動車側の信号が変わった。

アマンダは、ギリギリの所でターシャに追い付いていた。




 止まっていた車が動きだして間も無く、突風が吹いた。

それは、ターシャの手にあった1枚を、奪った。




「あっ!」




頭上に舞ったそれに手を伸ばすが、道路の方に飛んだ所を見て諦めた。

しかし、後方のアマンダが咄嗟に踵を返しその紙に、手を伸ばした。





大きく2歩引き返した所で、それを掴んだ―





「アマンダ!」


言い終えるまでに、目前から彼女が消えた。

巨大な衝突音と共に、声は掻き消された。





手前車線を走っていた大型トラックは、彼女を撥ねた。





 車の流れは瞬時に落ち、周囲が騒ぎ始める。

救急車やパトカーを呼べと叫び声が飛び交う中、ターシャは何の認識もできないまま、人混みの中で棒立ちになった。

人々はぼやけ、擦れ、自分の横を煙の如く静かに擦り抜け、視界が螺旋の如く回る。

親友の笑顔が渦に消えてはまた戻る。





 救急車の音が遠くから聞こえてきた。

目の前でそれが停まると、群衆に救急隊員が大きく割り込んでいく。

ターシャは無意識にそれを追いかけ、乱暴にそこを掻き分け、割り込んだ。





 瞼を失った。

何処からともなく血を流し横たわる彼女の変わり果てた姿が、飛び込んだ。



「行こ……行こ、ほら…!」



駆け寄っては、彼女の赤く染まる肩に触れた。

だがその体は、全く動いてはくれない。



「君、少し離れるんだ!」



現れた複数の救急隊員に体を軽々引き離され、寄越された担架に彼女を持ち上げている。



「待って……」



再び近付こうとするその手は、周囲の人だかりにより遮られる。



「待って!あたしの友達なの!」



担架に飛び付こうとした所、警察が不意に止めた。



「行く所があんのよ!連れて行かないで!

アマンダ来て!」



そんな中、彼女の赤く染まる左手に目が行った。

飛ばされたデザインの原紙が、挟まっている。



「……何してんのっ……何してんのよっ…!」



担架は救急車の中へ吸い込まれていく。



「心肺停止状態だ!」


「知り合いなら来て!」


女性の救急隊員がターシャに気付き、呼びに来た。

しかし足が竦み、背筋が凍り付く。



「嫌……嫌…嫌嫌っ!」


(そんなところ行きたくない!)



膝から崩れ落ち、両腕を抑え縮こまった。

真っ白な彼女の頬と腕に伝う血が見えた。




 その時、車内に風が吹き込んだ。

手にされていた用紙は軽やかに舞い、外へ飛び出したと同時にバックドアは閉められた。




呆気なくそれは、道路に落ちる。

血痕が滲む、皺が寄った原紙。

また吹き飛ばそうと、乾いた微風が音を立てた時、乱暴に掴んでは悲鳴の如く泣き叫んだ。





………


……










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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