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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#03. Data 闇
19/189

[4]





 ここは広大な海が見える丘。

家から少し坂道を上り、汗が滲んでいる。




足元にそよぐ芝生に音を立て、言われた場所までゆっくりと進んでいく。

点々と並ぶ墓石からは、花弁が時に舞った。

重たい色に変色する墓石に、ふと目が止まる。

随分と長く、この地で眠っているのだろうか。




 突如、先程まで無かった動悸がした。

ターシャの足は止まり、正面を凝視する。




そこには、海の方を向いて静かに佇む綺麗な墓石があった。

傍には元々植えられていた木が枝を広げ、木漏れ日が揺れている。


「あ……」


不意に零れた声はそのまま、薄く、細い涙に変わった。

足は勝手に、駆けた。





 アマンダ・マクレーン。

そう彫られた真新しい墓石が、陽光を浴びながら海を眺めていた。





涙は次々溢れ、心は張り裂けそうになる。

記憶を疾走し始め慌てる胸を、しゃがんで只管擦って落ち着かせていく。





 早い流れに乗って運ばれる雲は厚く、先程までの木漏れ日が徐々に消されては、殺風景で冷たい空気でこの場を覆う。





 その冷えた潮風に身震いし、重い腰を上げ、海を振り返る。




挿絵(By みてみん)




遥か遠くまで広がるそれを見ては、途方もない孤独感が襲った。

やはり、1人で来たのは間違いだったのか。

心は再び、鉛に変わりつつあった。

怠く、重く、背や腹に何かが圧し掛かる。




 閉じた眼を震わせ、そっと、彼女を振り返った。

じわじわと自然に伸びる手は、墓石に触れる。

また、風は雲を拭い木漏れ日を生み出した。

それを受ける場所と、そうでない場所との温度が、見えない斑を作った。




挿絵(By みてみん)




「………待たせたね…」




冷たい潮風は互いの間を擦り抜け、手にしていた花束が僅かに散った。

ターシャはそれをそっと彼女の前に置くと、震える手を組み合わせては、長く、長く、祈りを捧げ続けた。






 帰りは来た道とは別の、海沿いの山道を下っていた。

途中で通過してきた家々では、天候を気にして洗濯物を取り込む主婦が目立った。

だが、呆然と彼等が目に映るだけで、意識は他所にあった。




 葬儀当日、今よりも酷い精神状態だった。

友人が連絡をくれていた事も、アマンダの両親が訪問してくれた事も分かっていながら、全てを閉ざしていた。

あの場所で、彼女を愛する人達が集まり、その事実と向き合い別れを告げていたのだろう。

遺灰はどこに撒かれたのだろう。

何故這ってでも参列しなかったのだろう。

ターシャは、酷く後悔し始めた。




 重く溜息をつくと、視界を切り替えようと海の方を振り返る。

朝の天気は嘘の様で、視線の先に見える灰色の厚い雲を見る限り、これから雨が降りそうだ。






 夜中。

天気は、家そのものを反映している様だった。




 ソファで顔色を悪くした娘に、母親は寄り添っていた。

その光景を、父親が静かに見守っている。

1人で行かせた事を後悔しており、小さく溜め息が零れた。



「あんたに一番会いたかった筈だから…喜んでるわよ…」



そんな優しい声にも反応できないまま、包まれても温もらない手を微かに震わせ、窓の外に顔を向けている。



「横になんなさい。もう11時よ」



彼女の背中に触れると母親は立ち上がり、点けたままの台所の電気を消した。

リビングに点々と配置されたスタンドライトのオレンジの空間で、今度は父親が隣に座った。




 顔を窓に向け、固まったまま、動かない。

その後頭部を優しく撫でると、鼻を啜る音だけが僅かに立った。



「行こうターシャ。ここにずっと居ても仕方無いだろ?」



やっと、こちらを振り返ったその目は、濡れていた。それを指で丁寧に父親が拭うと、額にキスをしてそっと彼女を立たせる。



「母さんの言う通り、彼女は喜んでるさ。

偉かった。だからもう、それ以上責めるな」



肩を引き寄せ、手を握るとゆっくり娘を立ち上がらせる。






 辿々しい足取りでやっとベッドまで来ると、毛布は優しく身を包んだ。



「父さん……」



目を合わせ、続きを静かに待ち構えるその顔は、今朝とは違って寂寥を必死に隠そうとしている。



「……ありがとう…」



だから週末に、と言われる事も無く、受け入れてくれた事が素直に嬉しかった。

大きな手がまた頭を撫でると、頬にキスをされ、寝る前の言葉が交わされる。

父親はドアまで来ると再び振り返り、笑いかけた。




 部屋の照明が落ちると、そこにはただ、窓を引っ切り無しに叩く雨音だけが響いた。



………

……








MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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[良い点] 好き。 [気になる点] 個人的な感想書いて良いかなぁーと思っている、なぅ。 [一言] どうしても言いたくて…有難うって。 僕さぁ、妻が鬱なんだけど、だから大丈夫だと思われ勧められたものは、…
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