[3]
※約1970字でお送りします。
#12. Complete 細胞の記憶 [17]
ルークの目がそっと開く。
彼は、ここから更に決断する。
右肘の予備データの内容を、整理し始めた。
先をどう生きるか。
彼等は、これから起こる事を何処かで目の当たりにし、時間をかけ、決めるだろう。
ルークはデータ整理を続けながら、ある頼み事を静かにアマンダへ送った。
公になった事実やターシャによる情報から、逃亡中の組織達の捜査も進んでいる。
しかし、彼等の情報や実験に使用された遺体、アンドロイド製作に関する更なる詳細は、事件現場から一切発見されていない。
彼等がこちらに身を置いていた頃の履歴の調査も続いているが、その足取りは掴めていない。
個人の特定がなかなかできなかった。
まるで、作り込まれた情報不十分の場に陥れられている様だ。
ルークの腕から取り出されたデータを開いても、出てきた映像や記録は部分的だった。
切り取り方から見て、捜索に必要な組織や遺体の情報が敢えて抜き取られているとされた。
一方ターシャは、放火をした件で処分がどうなるか、家族と共に数日に渡って待機している。
その間、病院の多目的室を借り、警察や両親の他、アマンダとルークの家族が集まった。
あれからアマンダの花束は調べを終え、ターシャの手元に戻ったのだが、彼女はそれをそのままアマンダの両親に渡した。
海水を浴びて型崩れし、日も経っているというのに、それは萎れる事なく形を再び保ち、凛としている。
花を束ねている髪の毛根から、確かにアマンダのものである事も判明し、両親はただ只管それを胸にし、放さなかった。
当然、ルークの家族の気持ちが直ぐに和らぐ事は無い。
けれども、その集まりで目にしたものは、僅かだが彼等の旨の痞えを解いた。
データの中に詰まっていたのは、組織が作成したルークの身体情報。
これにより、事故現場から回収されたと分かった。
その他、恐ろしい映像が大半だったが、同時に、様々な表情を見せて行動するルークとアマンダの姿があった。
自分の姿を捉えられないルークは、ターシャと別れる前、アマンダが持つ記録を送るように頼んでいた。
ターシャは、彼から託された“愛してる”という言葉をそのまま家族に伝えると、皆はやっと、少しばかり微笑んだ。
そして全ての映像を確認し終えた時、複雑に揺さぶられ、絡み合う感情がつい、零れてしまう。
「………変…よね………でも……
会って……みたかった…」
どう見ても、我が子そのものに見えてならなかった。
2人の母親の、涙の中に紛れる心の声を耳にしては、ターシャは目を落とす。
その小さくなる体を、両親は優しく包んだ。
しかしどういう訳か。
その映像からは、ルークの声だけが一切聞こえてこなかった。
その夜は肌寒かった。
家族と別れた後、ターシャは羽織に腕を通すと、共有スペースに移動した。
まだ点々と患者が過ごし、会話が聞こえてくる。
窓際まで進むと、最上階に近いここからは綺麗な海の夜景が見えた。
退院が決まった。
それを、ある人に一刻も早く伝えたく、警察に依頼をして得た連絡先に電話をした。
“ターシャ!おいエバ!ターシャからだ!”
ロンは受話器の向こうで騒ぎ立てている。
つい耳から遠ざけたくなる程の声に、笑ってしまった。
通報をしてくれた事に、どう礼を伝えてよいか分からない。
あの時は、どうしようもなく落ち着きが無かった。
ただ、危険である事だけを言い放つだけの、極めて雑な時間だった。
今があるのは、ロン達のお陰でもある。
「まだ…色々あるけど……
落ち着いたら、会いに行っていい?」
“勿論!いい顔見せてくれよ”
明るく、大きな声に、ターシャはまた笑った。
“ああ、そうだターシャ…”
彼は突然、声を落とした。
“前に刑事と話してて、聞いたよ。
俺達を危険な目に遭わせたと言ってたとか何とか…”
「ああ…」
1歩間違えれば、あの島でアンドロイドが攻撃を仕掛けてくる可能性もあったのではないか、と口にした事がある。
それを思うと、自分は危うくロン達を最悪な目に遭わせてしまっていたのかもしれず、怖くなった。
“それは違う。
君がルークと俺達の元へ来なければ、今、
この時間は無かった。
……とは言っても、
俺も直ぐに君を信じて助けてやる事をしなかった。
懸命に知ろうとしないまま、
怖い思いをさせ続けて、悪かった……
刑事にはちゃんと話してある。
誰が何と言おうと、
俺やここの皆は、君を責めたりなんかしない”
温かすぎる言葉だった。
しかし、ターシャには少し前から、変化が起き始めている。
言葉を素直に受け取る反面、思う事があり、声が出ない。
“君の行いが無ければ、事実は分からないままだった。
君に救われた人が居るんだ”
「………そんな…止めてよ…」
そんな風に言われると、返し方がいつも分からなくなる。
それにやはり、引っ掛かるのだ。
自分はこうして、当然の様に温かい世界にいるという事に。
真っ白な照明が灯る部屋。
窓から見える夜空に浮かぶのは、点々と散りばめられた細かい白光。
まだ、あの地の事が焼きついている。
忘れる事は無い。
決して、忘れてはならない。
電話を終えてからも、彼女は暫く見上げて考えていた。
彼等は、行くべき所へ辿り着いただろうか。
彼等の目を思わせる夜空の星々に、彼女はそっと、祈りを捧げた。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。