[1]
火の海ばかりを見ていたお陰で、今日が清々しい晴天に陽光が射している事など、皆無だった。
気付けば、陽はすっかり真上を過ぎている。
到着した地元の船着場で、ターシャは一時、付近の縁石に腰掛け安静にしていた。
今は、2度の死別に途方に暮れている。
酸素マスクを着用し、肩にはブランケットが掛けられ、レスキュー隊員が駆け回るこの場をただ、呆然と眺めている。
赤く点滅し続けるランプが、小刻みに体を照らしていた。
隊員達が忙しない音を掻き立てているのだろうが、今は無音の中にいる。
最悪の世界はもう、無い。
終わったのだ。
しかし同時に、彼等も消滅した。
それに顔を大きく突っ伏し、声無く身震いする。
深い闇に過る、ルークやアマンダ以外の数々のアンドロイド達。
彼等もまた、何処かで誰かに愛され、また愛し、生きていた人間だっただろう。
そんな彼等もまた、一気に消えてしまった。
収拾がつかない感情に、顔や手は只管濡れていく。
小さな背中を、陽光が優しく温めてくれる。
昼の空は、実に美しいスカイブルーが広がっていた。
僅かに雲が漂い、時折影を生み出す。
空気は暖かく、じっとそれに包まれて蹲る時。
「君?ターシャって」
若々しいレスキュー隊員は、がたいがしっかりしている。
話し方や声からして、年齢が近く感じた。
職業が職業なだけに、大人びて見える。
しかし、あまり顔を合わせる気になれなかった。
涙で顔が最悪な状態だからという事もあるが、現れたその隊員のヘルメットから覗く僅かな金髪が、ルークを思い出させる。
「爆発から逃げ切っただなんて、君、俺達の仕事に向いてるかもよ」
「冗談……」
彼は明るく笑った。
呑気にフラフラと話しかけてくる様子から、まだ駆け出しだろうか。
「だよな。
でも、なかなかできっこないよ、あんな状況から切り抜けるだなんて。
俺が苦労してる事を、あっさりやってのけたのかな」
空気を変えようとしてくれているのだろうか。
ターシャは彼を見上げ、酸素マスクを下ろす。
「何に苦労してるの…」
彼は振り返り、ふと笑う。
「隊長に言われるんだよ。
冷静になる事。
仲間を信頼する事。
あと何だ…話を聞けって!」
ターシャは暫し間を置くと、首を振った。
「違う……
あたしはそのどれも…全くできてなかった……
全くよ……」
彼は目を丸くさせる。
彼女が向こうでどんな体験をしていたのか、一切知らない。
しかし、そこに座る彼女は助かったはいいものの、言い方からして自分を責めているように感じてならなかった。
それでも隊員の彼は、明るく笑って見せる。
ターシャはそれに、横向けた顔を徐々に戻した。
「顔上げろよ!
こうして、生きて帰ってこられたんだ。
ちゃんと意味があるし、そうであるように努められる」
ターシャは驚き、直ぐに返事ができなかった。
勇ましい彼もまた、こんな自分の背中を押してくれる。
「カイル!さっさとしろ、もう出るぞ!」
そう呼ばれて慌てて振り返る、目前の隊員の彼。
「じゃあなターシャ。きっと大丈夫。
もう一度、頑張れ」
それも忙しなく、立ち去りながら言うではないか。
「あの!…ありがとう!」
彼は爽やかに手を向けると、颯爽と向こうの隊員車両に消えてしまった。
ここらでは見かけない制服。
きっと、この未曾有の事態に、応援でどこかから派遣されてきたのだろう。
なのに、こんな2度と会えないかもしれない自分に、温かい光をくれた。
そしてそれと入れ替わるように
「「ターシャ!」」
両親が、呼んだ。
振り返ると、かけがえのない存在が強く飛び込む。
先程まで淀んでいた、やり場のない、収拾が付かない気持ち諸共、厚く温かい手で強く抱き締められた。
その後方からは、両親を連れてきた刑事が現れる。
この光景に安堵し、微笑むのだが、ターシャは涙を拭い、両親の腕からそっと離れた。
「ごめん……ごめんなさい……」
そう言って真剣な表情になると、預かった3つの証拠と、アマンダの花束を渡し、刑事と向き合う。
「火は、私がつけました」
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。