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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#12. Complete 細胞の記憶
180/189

[22]




※2960字 スペシャル

 ホラーな空気でお届けします。


#11. Almost done 実行 [19]

「トップ。

彼女やここの皆は、助かる?助かるわよね?」




爆発後

ターシャが目撃した光の糸が、天に昇る前の出来事







………………


………………


………………




 そこは冷たく、心地良い。

痛みを一切感じない。

だが重く、締め付けがある。






 トリガーを引いた時、眩しさと恐怖に堪らず目を瞑った。

粉砕する筈の肉体を、未だ感じる。

何故なのか。

ヘンリーはそっと、薄目を開いた。




― !? ―




 目に飛び込んだのは、ルーク。

彼は、ヘンリーを抱き締めていた。




その真上には、アマンダ。

彼女はこちらを向き、閉じる筈のない瞼を完全に下ろしている。

優しく、柔らかく微笑みながら、海中に浮かび、眠っていた。




 どうして2人がここに居るのか。

ターシャと共に、向こうへ渡ったのではないのかと、ヘンリーは目を大きく見開く。






 ルークはレーザー設定を最大に変換し、壁を共に突き破った。

しかし、先に接近したアマンダと、ヘンリーの後になった彼は、背中に爆撃を受けた。

左足大破、右膝下損壊、背面は骨格が露わになり、殆どが破壊されていた。






 見渡せば、他2体のアンドロイドの破損部品が、細かく散り散りになり、浮遊していた。






 遠ざかる、烈火の水面(みなも)

それは、漆黒の海に入り混じる。

ヘンリーはそこに、静かに気泡と共に揺れ落ちる1輪の花を捉えた。

それはこの場の闇を知らず、淡く光る。

彼は、それを咄嗟に掴もうと左手を伸ばした。




― !? ―




目を疑った。

そこに在るのは間違いなく、いつか奪われた利き手だ。




― 何でだ? ―




その口癖は、自然と零れる。




 突如、周囲に現れる細かい白光に目を奪われる。

目前の2人や、浮遊する部品から生まれた白い糸が、ヘンリーの全身に柔らかく絡みついた。






“トップ。

彼女やここの皆は、助かる?助かるわよね?”




ターシャは帰った。

そして、ここで心地よさそうに浮かんで眠るアマンダの姿は、ターシャが願う姿。

その向かいには、未知である深い海の底を欲しがってきた、ヘンリー。

もう見えない遥か遠い先では、仲間と共に在る、命ある部下達。




 緩やかに開いていた、アマンダの両腕。

彼女の襟元に残されていた1輪は、ヘンリーの顎に柔らかく乗る。




 長期的に咲くジニア。

その特徴から、長い時間を過ごす事で何かを失い、それを悲しむ時が来る事を意味する。

それは主に、友を指す。

一方で、注意を怠るなという意味も持つ。

長きに渡って生きる事で、油断する事も出てくると呼びかける。




 そんな言葉を持つ花を、彼女がヘンリーに贈るのはこれで2度目だった。

彼はそれをそっと左手に取り、眺める。






“気の毒だって思ったさ!

けど…俺や同じ立場の人間は…

どうしようもねぇんだよ…

上がお前の親父さんと話して決めた…

んなとこに入りこめっかよ…

告発なんか…後でどうなるか…

いい話聞いた事ねぇんだよ……”




ぼやけたビルの声に、ヘンリーは辺りを見渡す。

それは光となり、水面に向かって上昇すると、消えた。




それを見届けると、目を閉じる。

事件当時、ビルは暴走するヘンリーを抑止するという務めを果たした。

警備員としてすべき判断をし、実行した。

ただ、それだけなのだと、呑み込んだ。

それでも、本当は何か知っていたのではないのか。

ヘンリーの瞼は、僅かに震える。






“誰もついてこない。

これ、まるで変わってないじゃない。昔から。

だから言ってきたのよ。

人と接する事をしなさいって。

どう学んできてるのか知らないけど、考えを受け入れてもらいたいのならば、まずは相手を受け入れる事と、既定通りやる事ね”




いつだって一方的であり、祖父も父も彼女を肯定し続けた。

話を、聞いてもらえなかっただろうか。

そんなシャルの冷ややかな顔もまた、光に消える。






“本当に兄弟なのかって比較されてばっか!

どこ行ってもまず絶対それ!

うぜぇんだよ!俺は関係ねぇんだよ!ひ弱な腰抜け”




ヘンリーにも同じ経験はあった。

しかし、弟を居ないものとする選択はしなかった。

家族を揶揄われる事があれば、そればかりは周囲に反発してきた。

しかしそれでも、そっぽを向いたジェレクの背は、泡と共に上昇していく。






― 嫉妬しちゃうわ。

彼女は会う度、貴方の話ばかりよ。

………貴方さえ良ければ、仲良くしてもらえると、とても嬉しいんだけど……

急なのは、分かってるわ………

私と、じゃないわよ……彼女と、ね………

彼女…どうしようもなく寂しがりやだから…… ―




再び立ち上がったレアールを、レイシャは泣いて抱き締めた。

彼女は、その再会が嬉しくてならなかった。




駆け付けた時には遅かった。

浴室で失血死していたレアールの笑顔を、もう一度見たい。

モデル業界で役に立つ事ができないと己を責め続けていた彼女は、せめて、2人の役に立ちたいと言い残していた。








 正しく在れる様にと、家族は導こうとしていたのだろう。

しかしそれは、地獄でしかなかった。

時代や年齢、特性を理由に成果は閉ざされ、存在を封じられてきた。




 今より子どもだった当時は、別の手段を探る事や、希望を新たに持つ事に余裕が無かった。

後に心身は壊れ、別の色に染まる事で快楽を覚えてしまった。




 そしてその先で手に入れたのは、やっと守りたいと思えた仲間。

増えれば増える程、また失うのではないかと怯え、接点を深く持つ事をしなかった。

だが、意識をしなかった事など無い。




 また、最後に1つ失敗(しくじ)った。

無責任と知りながらも、想いは勝手に口走っていた。

深い闇の底まで持って行く。

そうすると決め切れていなかった己が最高にダサく、つい目を覆う。








 瞬く白光が揺らめく水面や、浮かぶアマンダからは、みるみる遠ざかる。




― 退くんだ。嘘なんかつきやがって……

何で…ここにいるんだよ… ―




ヘンリーは絡みつく青年を押し退けながら、ぼやけた声で呟く。

ルークは向き合うと、左目を引き上げて見せた。

外されたレーザー銃のパーツに気付いたヘンリーは、その意味を悟る。




― 懸命になりやがって……何でだ……

それじゃあまるで…… ―




いつかの自分ではないか。






 ルークは無言のまま、円らな目を瞬き、首を傾げる。

疑問を表現する際の癖は、綺麗に合わさった。




 絞り出して、絞り出して、やっと仕上げた7割。

後の3割は、培う事ができなかった部分。

不足した黒いものに侵食されて生まれたのは、

シリアルキラー(連続殺人犯)

何もかもが恨めしく、世の中が大嫌いだった。

でも今は、少しだけ心地良い。






 口から僅かに泡が漏れ、体が限界を告げる。

残る力を振り絞り、機械針を探り、引き抜いた。

そのままルークの頭に触れると、力無く握る機械針の先で、彼の耳裏の穴を探る。

溝の縁に触れた時、目が合う。




― 悪かった……悪かったよ…… ―




 ルークはその声に小さく頷くのだが、彼はヘンリーから機械針をそっと奪い、自らシャットダウンの位置に突き立てた。




 互いに見つめ合う中、ヘンリーは彼のアクションの意味を悟り、力無く微笑む。




 (せば)まる視界に揺れる、漆黒の海。

そこに浮かぶ真っ直ぐな目はどこか鋭く、厳めしい。

ヘンリーの体は強く引き寄せられ、互いが密着した。

ルークは、自ら機械針を突き刺す。






 実行された強制シャットダウンから、太く青白い電流が迸り、一体化する互いの息を電撃で絶つ。




 辺りに漂う細かな光は、其々の金属骨格に纏う細胞を全て吸収し始める。

それは、真上に揺れる朱の向こうに広がる、美しい晴天の水面に向かって閃光と化し、上昇。

同時に、光の空間は閉ざされた。






 この先も光を知らぬ、闇の海底。

遥か深い黒い世界は、彼の身を引き摺り、呑み込んだ。




挿絵(By みてみん)




………………


………………


………………









MECHANICAL CITY


12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。

最終話

キャラクターエンドクレジット

作者後書き


また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。

X/Instagram(@terra_write)

19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)

19:55~ 次回公開作前書き

20:00~ 次回公開作発表


感謝はお伝えしたい為、お越しください。

次作は、気が向きましたら是非。




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