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※2960字 スペシャル
ホラーな空気でお届けします。
#11. Almost done 実行 [19]
「トップ。
彼女やここの皆は、助かる?助かるわよね?」
爆発後
ターシャが目撃した光の糸が、天に昇る前の出来事
………………
………………
………………
そこは冷たく、心地良い。
痛みを一切感じない。
だが重く、締め付けがある。
トリガーを引いた時、眩しさと恐怖に堪らず目を瞑った。
粉砕する筈の肉体を、未だ感じる。
何故なのか。
ヘンリーはそっと、薄目を開いた。
― !? ―
目に飛び込んだのは、ルーク。
彼は、ヘンリーを抱き締めていた。
その真上には、アマンダ。
彼女はこちらを向き、閉じる筈のない瞼を完全に下ろしている。
優しく、柔らかく微笑みながら、海中に浮かび、眠っていた。
どうして2人がここに居るのか。
ターシャと共に、向こうへ渡ったのではないのかと、ヘンリーは目を大きく見開く。
ルークはレーザー設定を最大に変換し、壁を共に突き破った。
しかし、先に接近したアマンダと、ヘンリーの後になった彼は、背中に爆撃を受けた。
左足大破、右膝下損壊、背面は骨格が露わになり、殆どが破壊されていた。
見渡せば、他2体のアンドロイドの破損部品が、細かく散り散りになり、浮遊していた。
遠ざかる、烈火の水面。
それは、漆黒の海に入り混じる。
ヘンリーはそこに、静かに気泡と共に揺れ落ちる1輪の花を捉えた。
それはこの場の闇を知らず、淡く光る。
彼は、それを咄嗟に掴もうと左手を伸ばした。
― !? ―
目を疑った。
そこに在るのは間違いなく、いつか奪われた利き手だ。
― 何でだ? ―
その口癖は、自然と零れる。
突如、周囲に現れる細かい白光に目を奪われる。
目前の2人や、浮遊する部品から生まれた白い糸が、ヘンリーの全身に柔らかく絡みついた。
“トップ。
彼女やここの皆は、助かる?助かるわよね?”
ターシャは帰った。
そして、ここで心地よさそうに浮かんで眠るアマンダの姿は、ターシャが願う姿。
その向かいには、未知である深い海の底を欲しがってきた、ヘンリー。
もう見えない遥か遠い先では、仲間と共に在る、命ある部下達。
緩やかに開いていた、アマンダの両腕。
彼女の襟元に残されていた1輪は、ヘンリーの顎に柔らかく乗る。
長期的に咲くジニア。
その特徴から、長い時間を過ごす事で何かを失い、それを悲しむ時が来る事を意味する。
それは主に、友を指す。
一方で、注意を怠るなという意味も持つ。
長きに渡って生きる事で、油断する事も出てくると呼びかける。
そんな言葉を持つ花を、彼女がヘンリーに贈るのはこれで2度目だった。
彼はそれをそっと左手に取り、眺める。
“気の毒だって思ったさ!
けど…俺や同じ立場の人間は…
どうしようもねぇんだよ…
上がお前の親父さんと話して決めた…
んなとこに入りこめっかよ…
告発なんか…後でどうなるか…
いい話聞いた事ねぇんだよ……”
ぼやけたビルの声に、ヘンリーは辺りを見渡す。
それは光となり、水面に向かって上昇すると、消えた。
それを見届けると、目を閉じる。
事件当時、ビルは暴走するヘンリーを抑止するという務めを果たした。
警備員としてすべき判断をし、実行した。
ただ、それだけなのだと、呑み込んだ。
それでも、本当は何か知っていたのではないのか。
ヘンリーの瞼は、僅かに震える。
“誰もついてこない。
これ、まるで変わってないじゃない。昔から。
だから言ってきたのよ。
人と接する事をしなさいって。
どう学んできてるのか知らないけど、考えを受け入れてもらいたいのならば、まずは相手を受け入れる事と、既定通りやる事ね”
いつだって一方的であり、祖父も父も彼女を肯定し続けた。
話を、聞いてもらえなかっただろうか。
そんなシャルの冷ややかな顔もまた、光に消える。
“本当に兄弟なのかって比較されてばっか!
どこ行ってもまず絶対それ!
うぜぇんだよ!俺は関係ねぇんだよ!ひ弱な腰抜け”
ヘンリーにも同じ経験はあった。
しかし、弟を居ないものとする選択はしなかった。
家族を揶揄われる事があれば、そればかりは周囲に反発してきた。
しかしそれでも、そっぽを向いたジェレクの背は、泡と共に上昇していく。
― 嫉妬しちゃうわ。
彼女は会う度、貴方の話ばかりよ。
………貴方さえ良ければ、仲良くしてもらえると、とても嬉しいんだけど……
急なのは、分かってるわ………
私と、じゃないわよ……彼女と、ね………
彼女…どうしようもなく寂しがりやだから…… ―
再び立ち上がったレアールを、レイシャは泣いて抱き締めた。
彼女は、その再会が嬉しくてならなかった。
駆け付けた時には遅かった。
浴室で失血死していたレアールの笑顔を、もう一度見たい。
モデル業界で役に立つ事ができないと己を責め続けていた彼女は、せめて、2人の役に立ちたいと言い残していた。
正しく在れる様にと、家族は導こうとしていたのだろう。
しかしそれは、地獄でしかなかった。
時代や年齢、特性を理由に成果は閉ざされ、存在を封じられてきた。
今より子どもだった当時は、別の手段を探る事や、希望を新たに持つ事に余裕が無かった。
後に心身は壊れ、別の色に染まる事で快楽を覚えてしまった。
そしてその先で手に入れたのは、やっと守りたいと思えた仲間。
増えれば増える程、また失うのではないかと怯え、接点を深く持つ事をしなかった。
だが、意識をしなかった事など無い。
また、最後に1つ失敗った。
無責任と知りながらも、想いは勝手に口走っていた。
深い闇の底まで持って行く。
そうすると決め切れていなかった己が最高にダサく、つい目を覆う。
瞬く白光が揺らめく水面や、浮かぶアマンダからは、みるみる遠ざかる。
― 退くんだ。嘘なんかつきやがって……
何で…ここにいるんだよ… ―
ヘンリーは絡みつく青年を押し退けながら、ぼやけた声で呟く。
ルークは向き合うと、左目を引き上げて見せた。
外されたレーザー銃のパーツに気付いたヘンリーは、その意味を悟る。
― 懸命になりやがって……何でだ……
それじゃあまるで…… ―
いつかの自分ではないか。
ルークは無言のまま、円らな目を瞬き、首を傾げる。
疑問を表現する際の癖は、綺麗に合わさった。
絞り出して、絞り出して、やっと仕上げた7割。
後の3割は、培う事ができなかった部分。
不足した黒いものに侵食されて生まれたのは、
シリアルキラー。
何もかもが恨めしく、世の中が大嫌いだった。
でも今は、少しだけ心地良い。
口から僅かに泡が漏れ、体が限界を告げる。
残る力を振り絞り、機械針を探り、引き抜いた。
そのままルークの頭に触れると、力無く握る機械針の先で、彼の耳裏の穴を探る。
溝の縁に触れた時、目が合う。
― 悪かった……悪かったよ…… ―
ルークはその声に小さく頷くのだが、彼はヘンリーから機械針をそっと奪い、自らシャットダウンの位置に突き立てた。
互いに見つめ合う中、ヘンリーは彼のアクションの意味を悟り、力無く微笑む。
狭まる視界に揺れる、漆黒の海。
そこに浮かぶ真っ直ぐな目はどこか鋭く、厳めしい。
ヘンリーの体は強く引き寄せられ、互いが密着した。
ルークは、自ら機械針を突き刺す。
実行された強制シャットダウンから、太く青白い電流が迸り、一体化する互いの息を電撃で絶つ。
辺りに漂う細かな光は、其々の金属骨格に纏う細胞を全て吸収し始める。
それは、真上に揺れる朱の向こうに広がる、美しい晴天の水面に向かって閃光と化し、上昇。
同時に、光の空間は閉ざされた。
この先も光を知らぬ、闇の海底。
遥か深い黒い世界は、彼の身を引き摺り、呑み込んだ。
………………
………………
………………
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。