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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#03. Data 闇
18/189

[3]




「食べられそう?サンドイッチ」



ターシャは食卓につくと、母親に小さく頷いた。



「洗い物、できそうならお願いしていい?

もうすぐ行かないと」



流れで母親が依頼してきたが、彼女はすぐ余所見しながらカップに口を付けた。

思い切って頼んだのだろう。

不安定な娘に対し、どう向き合えばいいのかずっと考え、悩み、今この瞬間まで気遣っている。



以前まではそうされる事も堪らなく嫌で、放っておいて欲しかった。

だが、何だか今日は違った。




「いいよ。やっとく」




勝手に零れた返事には少々意欲があり、ふと笑みも浮かべる。

両親はそれについ驚き、久方振りに家庭に家族の光が灯った。






 新聞が畳まれる音がし、父親がジャケットをスタンドから取っては隣にやって来た。



「行ってくるよ。今日は?出かけないのか?」


「その前にネクタイはしなくていいの?」


ターシャの指摘に夫婦で目を丸くさせると、笑いが零れた。


「そうだった。どれがいいかな」


「あたしがあげたやつ。そのスーツに合うから」


紺色にストライプが入ったデザインのそれは、その姿を一気に引き立たせる。

娘の言葉にとてつもなく嬉しそうな表情は、一層爽やかさを増した。


「私も支度するわ」


母親もまた、安堵する表情で席を立つ。





「アマンダの…」





ターシャの口から、自然と零れた。

ふと、葬儀に行っていない事が蘇る。





「アマンダに………会って来る……」





「……1人で平気なの?」


母親の言葉に顔を上げる。


「大丈夫……どの辺かな」


父親が顔色を気にし、そっと肩に触れた。


「週末に一緒に行かないか?」




本当はそれがいいのだろうけれど、気分は違った。

行かないといけない様な気がするのだ。

ターシャは首を横に振ると、父親に微笑んだ。



「ありがとう。でも平気……話したいから…」



その言葉にまだ心配はあるものの、両親は尊重した。







 両親と別れ、ダイニングの片付けを済ませる。




 部屋に散らかったままの物を一通り箱に詰め込み、クローゼットに押し込んだ。

また引っ張り出したい。

出して見せる。

そう胸に言い聞かせた。




 着替えようと姿見に映る自分に目をやる。

何だか懐かしい気持ちになりながら、押し込んだ箱の上にかかる数々の服を眺めた。

その手は自然と、長袖の白いシャツワンピースが掛かるハンガーを掴んだ。



「……これでいっか…」



色々選ぶつもりが、不思議と直感で手に取り部屋着をベッドに脱ぎ捨てる。

脛の半ば辺りまでの丈だが、ライトブラウンのレースアップベルトを巻き、丈を膝の辺りにまで調整した。

姿見に映る自分からは徐々に、纏わりついていた重い物が取れていく。

気が付けばアクセサリーにまで手が伸び、わくわくしている。

細めのダブルラインバングルにピアスは、窓からの陽光がを受け、控え目なゴールドの輝きを与えた。


「よし…」






 下りてきては、用意していた小さく束にした庭の白のカーネーションを手に取る。

黒のレースアップブーツを履くと、何の躊躇いも無くドアを開けた。




 柔らかな陽光は一気に全身を温め、眩しさについ手を翳す。

風が体中の隙間を擦り抜けた。

空気を大きく吸い込むと、そこらから漂う花の香りが鼻腔を擽り、小さくくしゃみが出る。

心地よさに揺られ、軽い足取りで彼女は出かけた。









MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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