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喚き声は廊下の暗がりにみるみる消え、ガソリン臭だけが濃く立ち込めるロビーは、一気に静まり返った。
馬鹿馬鹿しい時間が終わり、瞬きも忘れ、円らな瞳をあてもなく向けている。
部下の前では漲っていたものがあったのに、すっかり何処かへ消えてしまった。
銃を握る手が、冷えていく。
感覚が失われていくのは、本格的に人間でなくなり始めているのか。
死を望みながらも、拒む時が幾度となくあった。
それは、もう少しだけでも、生きたいと思ってしまったからだ。
(俺には、見たいものがあった…)
そして今、十分過ぎる程にそれを見て、得たものを感じている。
部下の声や表情が、瞬く間に過ぎ去った。
こんな自分でも、少しは役に立てただろうか。
最期は、そういう事にさせてはもらえないだろうか。
これも、甘ったるい贅沢な希望だ。
暇さえあれば眺めてきた大海原。
謎多きその世界がどんなものか、ずっと知りたくてならない。
目の前に淀むのはガソリンの海だが、今はそれが美しい水面に見え、接近してくる様だ。
(…そこに……行ける…か……)
「「トップ!」」
アマンダとルークの叫び声がし、ジェレクもヘンリーを振り返る。
ヘンリーは聞こえていないのか、呆然と立ち尽くし、銃口をタンクに向けていた。
体温はみるみる下がり、呼吸も弱い。
3体は入り口に飛び付き、ガラス扉を共に破壊すると中へ突撃した。
ヘンリーは小さく息を吐くと、その目に光を取り戻し、浮かび上がる数々のぼやけた顔に微笑む。
アマンダが先に駆け、後からルークが追う。
その背後にジェレク、ガレージからはビルが合流した。
ヘンリーは妙な感覚に陥る。
ロビーで一斉に集合する彼等の動きは、コマ送りされていた。
その間、全アンドロイドの目を見渡す。
向こうへ渡り、もう居ない筈であろうルークとアマンダが目に飛び込んできても、遅かった。
トドメの鉛の貫通は、疾い。
落ちる火花。
破損したアンドロイドからの漏電。
それらに真横から合わさる、目を刺す程に眩い白光。
嘗ての事件の記憶を呼び覚ますそれに、彼は恐怖で反射的に目を瞑った。
体は激しく何かに押され、拘束された感覚をおぼえると、そのまま真横へ撥ね飛ばされた。
世は寸時、時の流れを止め、静を生む。
凹凸に象る白い巨大な爆炎に、中を渦巻く朱。
白煙を覆い被さる様に、太い黒煙の柱が高く出現した。
その光景は、辺りの虹彩を埋め尽くし、目と脳に焼きつける。
悪の根城、機械の街は最後、イーストで爆裂し、天をも爆ぜた。
残る建造物と共鳴する轟烈は身の支えを解き、人々は船内で崩れる。
一帯が蜃気楼にうねり続けた。
遠く離れた位置でも爆風が髪を揺らす。
ターシャは救助船の縁になんとか掴まり、それを見届ける。
彼女の震える目はやがて、白く、細かい光を纏った美しい糸の数々が捉えられた。
軽やかに海面を舞うそれらは次第に合わさり、太くなる。
そして光の柱となり、閃光の如く天に上昇すると、真っ青な晴天が鮮やかに広がった。
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MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。