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※約1900字でお送りします。
ヘンリーは目を閉じ、振動する瞼の奥で、適当な言葉を組み立てた。
とにかく、僅かであれ混乱を作り、時間を引き延ばそうと息を震わせる。
それは、彼等の判断の為だ。
「聞き分けが無くてなぁ……
全員殺して…変換してやった……
どれも失敗に終わっちまって…使えねぇ………
もう飽きちまってこの通り…敷地ごと燃やしてやった……
最後は俺諸共…全部吹っ飛ばしてやるよ…
元々…片す約束だったからなぁ……」
キャプテンの目はより鋭利になり、彼を睨みつける。
そこへ、ヘンリーがある1瓶を放り投げた。
キャプテンは咄嗟にそれを掴み取る。
「あの餓鬼にはやられた……ああ甘く見てたぜ……
迎えて早々…治験なり変換なり…焼却するなりし…
こちらの役に立ってもらえりゃあよかった………
植物だった割に偉く活きが良過ぎてな……
銃撃も通過…暴力にも抗い…
そいつの投与も躱し………
嘸かし運の良い、生きるに値する人間か……
羨ましい……使えなくて惜しい……
せめてモノにしときゃあ良かったなぁ……
それこそパーツの1個1個を…
愛でてやってもよかったなあ!」
「……貴…様っ!」
ヘンリーは語気を笑いながら強め、一帯を凝視する。
豹変する顔をフラッと傾け、せせら笑うのを静かに抑えていく。
「なぁお宅ら……偉く呑気だが……
ぶち撒かれてるモンが何か分かってねぇなら…
そのゴーグル…高スペックに改新してやるぜ?
1時間も要らねぇ……
俺が…もっと…つえーもんに…してやるよ!」
発言は全て緩やかだが、震えていた。
再び言い終わりに笑みを含む彼。
気付けばこんな口調になっていたのも、人付き合いの恐怖によるものだ。
そんな声などもう、聞きたくない。
「もういい喋るな!後方を向け!お前を連行する!」
しかしヘンリーは、右手の銃をそっと持ち上げるとスライドに噛みつき、ギリギリと引く。
それに部隊は身を引く。
ヘンリーの銃口は、視界の端に転がる密閉されたガソリンタンクに向く。
「いつまで相手を間違えてる……
さっさと退け………死ぬぞ…」
部隊の後方からは、落ち着いた低い足音がし始める。
最後尾に付く者がその音を振り返ると、ガレージから続く暗い廊下から、ビルが接近してくるのを捉えた。
「所詮は察も人間……
面倒や金を理由に、都合よく隠蔽する……
そんな旧式に…俺は興味ねぇんだよ…」
ノロノロと耳に入り込む発言に、部隊は顰め面を見せる。
一方、外に繋がるガラス扉の向こうにも目を向け、動揺した。
そこではルーク達が、こちらに入る手前で取っ組み合いになっている。
「お宅らを殺す事もまた…造作もねぇ…だが……
もう…結構だ…」
騒めく部隊に、彼は睨みを利かす。
突如、ビルがすぐ傍の隊員から奥へ引き摺り、ガレージへ引き返し始めた。
一驚を上げるその者を見るなり、仲間の部隊はビルに突進する。
しかし、彼は目に留まる隊員を次々捻り上げ、転倒させていった。
瞬く間に1人、また1人と、手際よく悶えさせる。
横転した部隊達の足を引き摺り、ガレージに伸びる通路へ投げ飛ばし、次々に纏めた。
まるでフロア内を清掃するかの如く、彼等をガレージへ押しやると、ボートに投げ込んでいく。
「今直ぐアンドロイドを止めろ!クラッセン!」
その場に残ったキャプテンが吠え、引き金に触れる音を立てる。
「トリガーは俺だぜキャップ…
役目取るんじゃねぇ…」
不意にキャプテンは銃を捨て、彼に飛び掛かろうと前傾になった。
だが、間に合わない。
キャプテンはその場に追い付いたビルに、真横から足蹴を喰らい、転倒。
痛みの声に被さりながら、ビルはそのまま隊員を引き摺り、再び奥のガレージへ連行する。
その行く手を阻むのは、残る2人の隊員。
彼等は再び、ビルに銃口を向ける。
「よせっ!退避だっ!爆発するっ!」
キャプテンは、ビルに引き摺られた影響で口に入ったガソリンを吐き出しながら、部下に放った。
「現状のスタイルが相応しくない事は認めてやる。
だが諦めろ。
お宅らがそんな面向けたくなるのと同様に、ここの代表もお宅らが憎いんでな」
ビルは立ちはだかる薄っぺらい部隊の壁を押し切り、ガレージの扉からキャプテンを投げ飛ばした。
指令に従い、残る部下達が流れる様にガレージにやって来る。
ボートに投げ飛ばされていた仲間は、慌てて退避体勢に入った。
それを見たビルは、足元に偶々転がっていた突撃銃を拾い上げ、彼等に向ける。
機動隊は大層慌てふためきながら、ボートを発進させた。
そののろまな光景を見たビルは、ボートの天辺やゲートの縁に、威嚇射撃を数発放つ。
部隊は頭を低くさせながら、その場から速度を上げ、脱出していく。
操縦室からは、現場に居合わせる消防隊やレスキュー隊、本部に、間も無く爆発が起こる旨が発報された。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。