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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#12. Complete 細胞の記憶
176/189

[18]



※約2550字

 2回目のスペシャルでお送りします。







 時が止まっていたのか。

気が付くと、何事も無かったかの様に熱波を感じ、辺りには炎が立ち込めている。






 ルークは抱き締めていたターシャから身を離し、目を(またた)いていた。

隣に居るアマンダは、ドレスの襟元に1輪の白いジニアを熱風に揺らしながら、無表情で首を傾げている。

まるで先程の出来事など、分かっていない様子だ。






 大事な話があると告げたルークは、その続きを切り出す。




「俺が君を撥ねた事を、トップが教えてくれた。

君が入院していた病院から得たデータと照合して、分かったよ………

悪かった……」




ターシャは耳を疑った。

光の間に居た彼は、酷く身を震わせながら告げていたが、今の彼はまた違っている。

じっと静かに俯き、ターシャの肩を掴む手は微かに振動していた。

ターシャは再び、彼を安心させようとするが




「けど…俺も帰らない…」




それに彼女の目は揺れ、眉を顰める。




「……何か…預かってたのに?

……貴方はそれを、了承してた…」




「俺だって嘘をつく。

でもどうせつくなら、安心できるものがいい…」




彼はアマンダにも優しく微笑むと、真顔に戻る。




「君は向こうで、俺の家族に会うだろう。

言っておいてもらえないか……

愛してるって……

直接言うべきなんだろうけど…」




これまでみたく顔を上げ、堂々と論じていた様子とは打って変わり、探る様な言い方だった。

困惑を見せるターシャに、ルークはそれを察して寂しげに笑う。




「会っても…満足させてあげられない…」




これまで滑らかに話していた彼だが、今は慎重で、緩やだ。

ターシャは不安なまま、耳を傾け続ける。






「俺は、家族を愛してただろうし…

この先もそうだ……

何故なら……

家族なら、どこでどうあれ、そうあるべきだって俺は思うし、願う………

今でも心から…願ってるんだよ……

どんな事があっても、忘れやしない…」




暫し間を置き、彼はやっとモノを突き出した。




「もう1つ頼みがある」




ターシャの手を取ると、それを握らせた。

ヘンリーから渡されたコンパクトデータコレクターの他、取り外したレーザーの銃口。

そして




「何するの…!?」




驚く彼女を前に、ルークは右肘から予備データ基盤を取るべく、抉り始める。

必死の面持ちだが、それは手早く抜き取られた。

薄型のそれは、よく見るメモリーカードの様な形状をしている。






「いいか、全部大事な証拠だ。

絶対に失くさず警察に渡してくれ。

そして、彼女と俺の家族に……」




彼はアマンダに目配せしながら言った。




「証拠って……

でも、あたしだって…家族に会えるかどうか……」




3つの証拠を両手に、震えるターシャ。

不安や悲しみ、強張る顔は、本当は酷く自分を責めている。

彼はじっとそれらを解析すると、小さく笑みを浮かべた。






「ああ君は、随分な行いをしたよ。

でも、それでも俺や、彼女は分かってるし、いつだって味方だ。

どんな姿であれ、だ」




ふとターシャの肩にアマンダが触れ、頷く。




「君は凄いよ…本当は…な。

向こうでは、一役買った経験もあるじゃないか。

俺には、服の世界は全く分からないけどね」




ターシャのデータから、ルークは彼女の過去の活躍を話す。




「君には行動力がある。

そんな君が、ここであらゆるものを見て、聞いて、新たに知った事がある。

これから環境が変わった時、もう一度、変わるチャンスを得られる。

未来をきっと変えられる。

人の未来を、だ……だから…頼んだ…」




ターシャの不安な顔を更に読み取ると、彼は眼差しを真っ直ぐ向ける。






「居場所があっても、それだけではダメなんだ。

誰かが傍に居る方が良い。

手を取ってやる方がいい。



触れる事で、安心感や幸福感を高められる。

心が安定し、不安が軽くなる。

自分が守られている、愛されている、そうされるべき大切な人間なんだって、認識できる事に繋がる。



君ならそれを、よく知っているだろう。

そしてそれを、与えられる」






地響きが再び、微かになり始める。

それでも、彼は最後まで続けた。




「どんな人間でも、独りは……

例えそう在る事が好きであっても……

ふとした時、寂しく感じる……。

君が言う行くべき所が、俺にとってはここにある……」






 その時、瓦礫が落ち始めた。

イーストの最上階の連絡橋の継ぎ目が、大きな軋み音を立てる。

アマンダとルークは、ターシャを押しやろうとした。

だがターシャは、再び2人に大きく抱きつく。




「分かったっ……大丈夫っ…」



アマンダは彼女の手を握ると、優しく告げた。



「大好きだよ、ターシャ」



ルークは何も言わず、勇ましい顔で頷く。

ターシャは泣き顔で終わらせまいと、涙を光らせたまま、無理にでも笑ってみせた。




「大好き。2人共ね」




ルークは吸い込まれる様にそれを凝視すると




「ああ!それ、可愛いってやつ?」




目をパッと見開いて言うではないか。

どこか深い奥底から、何かを掘り起こした様な感覚か。

こんな時に何だと、ターシャは動揺する。




「コードとして成立してなくて、孤立してた。

何かと思ったよ」






 遂に、連絡橋の継ぎ目が断たれた激しい金属音が轟く。

複数のレスキュー隊員が、3人に駆け寄った。



彼等を手前に引いたのが先か。



先程まで3人が集まっていた所に、複数の瓦礫が落下する。

そのまま2人は、ターシャをレスキュー隊員に押しやった。




「行け!」




ルークの声に合わせ、ターシャの背中にレスキュー隊の手が伸び、2人との距離ができた。



「おい!」



隊員は引き返す2人を追おうとするのだが、後方に控えていた別の隊員が、咄嗟にそれを阻止する。






 速い。



 ターシャの腕は、咄嗟に宙を搔く。

胸痛に邪魔され、声にならない。

黒煙と砂煙が立ち込め、2人は加速をつけてぼやけていった。






 潮風に大きく煙が拭われた時、その奥で、(しか)と目が合う。

アマンダはターシャに頷くと、小さく指先だけで手を振る。

表情が変わらなくとも分かる。

寂しい、だろう。



ルークは既に背を向けていたところ、肩越しに振り返る。

彼は柔らかく右口角を上げ、真っ直ぐな眼差しを浮かべながら笑った。

教えを上回ったそれは自然であり、まるで人間そのものか。



2人は直に、燃え盛る拠点の奥へ消え去る。






 最上階の連絡橋が中央に残されていたもう1本と合わさり、地面に落下する。

それは寸秒の間。

風圧と衝撃で、皆の体勢が崩れる。




 更に、連絡橋が断たれた影響で傾いたイーストの上部が崩壊し、コンクリートの塊がノースに合わさり、落下。

瓦礫が飛散し、行く手は完全に閉ざされた。




挿絵(By みてみん)







MECHANICAL CITY


12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。

最終話

キャラクターエンドクレジット

作者後書き


また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。

X/Instagram(@terra_write)

19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)

19:55~ 次回公開作前書き

20:00~ 次回公開作発表


感謝はお伝えしたい為、お越しください。

次作は、気が向きましたら是非。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今度レビューを書かせてもらいますね^ ^ ターシャとアマンダ、そしてルークの別れ…… 悲しいですが、ルークの言葉は悲しみがなくどこか清々しさすら感じますね。 これでターシャも救われるの…
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