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※約1900字でお送りします。
#12. Complete 細胞の記憶
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「>>私は安心を選ぶ。親友のね。
もう、決めてた。>>>>」
ターシャは、ふと零れた彼女の言葉の意味が分からず、目を瞬く。
「これがか…ならダメだ。
>>まだ大事な事がある。行かない。>>>>」
ルークは呟いた。
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ルークは直ぐさまターシャとアマンダ、隊員を押しやり、レスキューボートの方へ強引に連れて行く。
イーストの連絡橋は、間もなく落下しようとしていた。
駆けつけた1人の隊員は、ルークの押しやる力に戸惑う。
頭上から細かい落石が起き、それらが降りかかると共に落下を思わせた。
片や、消防艇や消防飛行艇による放水により、火は僅かに治りつつある。
ターシャは隊員と共に押しやられる中、アマンダに咄嗟に手を伸ばした。
「ターシャ、もう部隊が着いてる。大丈夫よ」
アマンダの声の後、間髪入れず目に飛び込んだのは、柵の向こうに揺れる救命ボート。
他の隊員も待機していたところ、出現したターシャと後の2人に驚く顔を浮かべる。
聞いている被害者情報から、目を疑っている様だ。
気付けばルークは途中で立ち止まり、皆と距離ができていた。
何かをしている様だが、ターシャはそれを捉える間も無くアマンダに押され、隊員に腕を引かれる。
親友から引き離されていく。
頭では不意に、花束に添えられた彼女の言葉が過った。
ターシャは隊員の手を自然と振り解くと、アマンダの腕に飛びついて引き寄せようとする。
しかし、彼女は動かなかった。
「何で…」
熱波に乗って流れる細かな火種に、アマンダのドレスは温かく靡く。
背後からの隊員の声など、聞こえなかった。
「私とルークがここに居るのは、自分でそう決断したから。
トップや補佐官の指示で、残ってるんじゃない」
ターシャは煌々と赤く照らされる彼女を、真っ直ぐ見ながら声も無く驚く。
「分かってるよ、ターシャ。
私も、貴方が安心すればホッとする。
でも1つだけ、許して欲しい。
ここで終わりにさせて」
ターシャの首は、自然と振られる。
安らかに眠り、行くべき所から生者を見守るもの。
ボートでルークに告げた自分が望むそれを、今、親友はこの場で選択している。
アマンダとルークがノースで互いに話していた、自分にだけ理解できなかった会話はこの事だった。
そう、望んでいた筈だ。
しかし、心は結局揺れ動くままだ。
イーストのロビーに消えたあの男は、2人も帰っていいと言う。
広間に居たRも、実際に向こうへ脱出した。
だが、元々優しいアマンダはやはり想像する。
向こうへ戻り、仮に家族が受け入れたとしても、それで落ち着く事は無いだろう。
事故で死別したが、こんな形であれ親友と再会できた。
これで、十分だった。
レスキュー隊はそこに居り、やっと逃げられる中、ターシャはアマンダの手を引いてしまう。
もうずっと、恐怖が治まらないままだ。
この地も、組織も。
銃や針、暴力にアンドロイドも。
何より、今の自分自身が。
親友が操作されていると明確であっても、求めてしまう、どうしようもない気の迷い。
無理やり意思決定をし、強行が招いたこの実態。
全てが最悪だ。
でもここで、彼女に砕けて欲しくはない。
あらゆる感情が表情に滲み、声も出ない。
その最中、後方で独り佇むルークに視線が向く。
彼はどういう訳か、左目を引き上げ、レーザーの銃口を出した。
動作が止まるとそれを掴み、毟り始めるではないか。
「ルーク何して…」
ターシャが恐々と彼を見る背後では、その光景を目にしていた隊員が声を上げながら目を見張る。
痛みを表現できるルークは、その動作中、幾度となく動きを妨げられていた。
それでも必死に抗い、片目をきつく閉じ、険しい表情を浮かべながら強引にパーツを抜き取る。
その跡から、青白い電流が細く宙に走った。
彼は、手にした熱を帯びるパーツを煽ぐ様に振る。
目の奥に灯る青白い光。
そこには時に、点滅する金色が走る。
次に、右肘に仕込まれた予備データ基盤に触れ、暫く目を左右させた。
そこには、これまでの記録が全て残されている。
それらを高速に振り返りながら、ヘンリーを胸に想像していた。
ヘンリーから受け取ったものを解析した時、ある多くの事が判明した。
自分がこれまで見て、感じてきた事。
話してきた事や、この体に搭載されているものが、光に変わって巡り続ける。
そして、判明した情報が加わる事で、合わさった。
それを確認し続ける目は鋭利になり、やがて、姿が見えないヘンリーを宙に睨め上げる。
恨めしい。憎い。
だが一方で苦しく、悲惨な気持ちにスカイブルーの目が閉じる。
何故人が、こんな風になる前に、どこかでその存在を許し、受け入れる者が現れなかったのか。
自分は、嘗てより決めていた彼の決断を、逃げや無責任などと言わない。
彼は、仲間や被害者、家族を捨てているのではない。
楽を選んでいるのではない。
率先して、誰の目に触れる事も無い路。
闇を選ぶのだ。
漸く、遂に、やっと下した、彼にとっての大事な判断だ。
ルークの目がそっと開く。
彼は、ここから更に決断する。
右肘の予備データの内容を、整理し始めた。
先をどう生きるか。
彼等は、これから起こる事を何処かで目の当たりにし、時間をかけ、決めるだろう。
ルークはデータ整理を続けながら、ある頼み事を静かにアマンダへ送った。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
19:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
19:55~ 次回公開作前書き
20:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。