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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#12. Complete 細胞の記憶
172/189

[14]




※約1700字でお送りします。







 ルークの怒鳴り声で、辺りは火の音だけになる。




ヘンリーは深々と突っ伏し、息を整えるのに集中していた。

項垂れるあまり、その表情は誰にも分からないが、肩は小さく震えている。

激しく前傾になった拍子に落ちた扉のガラス片が、髪と肩に炎を受けて光っていた。

不意に縁に右手を付き、大きく体重がかかったそこからは流血している。

この激痛を機に、ターシャによるアクションや、決断を実行した事で生まれた黒い何かによる拘束が解かれる。

やっと焦点が定まり始めると、胸倉からターシャの両手が離れていった。




「………とっとと…行け………

君達はまだ……生きられる……」




地を這う様な低い掠れ声は、気力を殆ど感じない。




「担いでやるから出て来い。

生きられるのはトップもおな




ヘンリーはそっと、ルークの肩に右手を置く。




「切り捨てだ……

簡素化し…面倒から逃れられる……

囚われる事無く……先に進みやすくなる……

それもまた…必要だ…」




そして胸ポケットから、あのコンパクトデータコレクターを取り出した。

それを握る拳は、ルークの胸に力無くぶつかる。

一体何かと、ルークは中身を解析した。

途端、みるみる瞼が開き、目は細かく左右する。




「………行けばいい……

帰って…先を見て…解析して…決めればいい…」




視線を落としたまま、声はルークとアマンダに向いている。

冷や汗を滲ませた口調は、また別の特徴を見せていた。

震えが混じる声は穏やかで、まるで、そんな風に誰かに言ってもらいたかったのか。






 ルークは無言のまま、突き付けられたそれを静かに受け取る。

そこから見えるあらゆる情報から、何かを頭で巡らせ、目は困惑している様だ。




 片やヘンリーは、言いながらつい想像してしまっていた。

もし今、この青年が僅かであれ、向こうで受け入れられるならば。

この真っ直ぐ過ぎる存在がもし、更に誰かと接触できるならば、何が起こるのか。

見届けるつもりは無いのに、どうしても、その世界が気になってしまう。

受け入れられなかった過去が、ルークの手を伝い、震えた。




「………何でだ?……出て来ていい。

警察に会うのは、なにもそこじゃなくていい」




囁きで消える、やっと零された声。

それと同じ様に、ヘンリーは答える。




「………トップが出るのは……最後だ…」




ここにはまだ、残っている者が居る。

彼は、出るつもりは無い。

それでも




「出て来て。だって怖がってる」




アマンダは、彼の震える右腕を見ながら言う。

体温、眼振、心拍、筋肉の振動から解析したのだろう。

ターシャは顔を強張らせながら、3人に目を往復させていた。






 ヘンリーは心の中で、自分を笑っていた。

System Real/Ray、代わりに見てもらえないだろうか。

そんな、都合のいい願いが未だに浮かんでしまうのだ。




 もう、延々湧き出る欲が生み出すものがどんなものか、この変わらない性分がどんなザマなのかは、証明し尽くした。




「ああ……だからもう………Q.E.Dだ…」




だが今、やっと恐怖を認めて口にできている。

この上ない贅沢だろう。

彼はそっとルークから手を放し、3人に目を走らせた。






 その間ルークの頭では、何かが決定付けられる。

間は少々長く、見開いていた目はどこか寂寥を漂わせながら、足元に落ちる。

赤一色に染まる拠点を背に、影が射す顔。

それは直に、再びヘンリーに向けられる。




「…………分かったよ…」




含みを持つ返答に、ヘンリーは何も言わず薄笑いを浮かべた。

そこへ






 「ターシャか!?」






彼女は肩から大きく飛び上がり、ルークとアマンダと共に振り返る。

駆け付けた1人のレスキュー隊員が、炎の音がする中、割り込んだ。

ルークは再びイーストの中を振り返るが、そこにはもう、ヘンリーの姿は無かった。




 ルークは直ぐさまターシャとアマンダ、隊員を押しやり、レスキューボートの方へ強引に連れて行く。

イーストの連絡橋は、間もなく落下しようとしていた。








 ヘンリーは横の壁に凭れ、力無く息を吐く。

これまでのルークの解釈の仕方も、質疑応答の仕方も何もかも、目を覆いたくなる。

結局いつまでも慣れる事が無かった胸痛に汗が滲み、体温が上がる。

充満するガソリン臭に頭を眩ませる中、ガレージに伸びる暗い廊下を睨みつけ、その先の騒ぎに耳を傾けた。









MECHANICAL CITY


12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。

最終話

キャラクターエンドクレジット

作者後書き


また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。

X/Instagram(@terra_write)

20:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)

20:55~ 次回公開作前書き

21:00~ 次回公開作発表


感謝はお伝えしたい為、お越しください。

次作は、気が向きましたら是非。




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