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#12. Complete 細胞の記憶 [11]
そこへ、更なる軋み音が体を振動させる。
ウェストが炎を上げながら、広間の方へ倒れ始めた。
「あんたら、偉く呑気じゃん」
ジェレクは面倒くさそうに零した途端、目の前の1隻に飛び乗った。
※本場面での裏側で起きていた、3人の動きをお送りします。
ウェスト倒壊前に少し遡ります。
僅かに青みがかる朱色の炎。
消防艇の放水は、未だ追いついていない。
サウスと似たウェストのフロア内にもまた、大量の薬品がある。
凭れかかるサウスにより半分以上が崩れたそこから、更なる黒煙が潮風に大きく煽られ続けた。
広間はみるみる燃え、炎の加速は目まぐるしい。
転々と並ぶ家屋を含め、拠点一帯は朱に染まりゆく。
先程まで身を潜めていたノースからも、飛散した瓦礫を浴びた事で煙が上がり始めた。
火を纏った落下物や火花が、風に乗って拠点諸共包む。
残る安全地帯は住居のイースト。
しかしそこも、片側の連絡橋の継ぎ目が断たれた今、傾きが観測できる。
直に同様の被害が起こるだろう。
小規模の爆発が絶えず、引火が多発している。
その上空では、1機の消防飛行艇が旋回していた。
そしてとうとう、3人の目の前でノースが1発、爆発を起こした。
彼等は爆風と震動でバランスを崩し、よろめく。
砕けたコンクリートが飛散し、周辺の地面や海に落下した。
蜃気楼でみるみる歪む機械の街に火の粉が舞い、清々しい晴天は赤く染まっている。
半端に破壊されたノースからは炎が上がり、新たな火柱が生まれた。
レスキュー隊は未だ見えない。
熱波は軽度の火傷を負わせてくる。
そんな中、ターシャの頭に組織が浮かんだ。
「あいつ等は!?」
「もう出たよ。
ボートにガードを仕込んだようだから、行き先が特定できない」
「そんな…!?」
ターシャは耳を疑った。
自分はまだしも、ルークやアマンダ、他にもまだアンドロイドが居る。
彼等もシャルの様に、ここで燃え尽きろというのか。
時が限られたとはこの事なのか。
組織を警察に突き出す事ができないと分かると腹が立ち、顔に怒りが滲む。
その時、アマンダがそっと告げた。
「彼はそこに居る…」
その理由が分からない様で、声だけで不安を漂わせている。
彼女の視線はイーストに向いていた。
ターシャはそれを聞きつけるなり、目を徐々に見開いていく。
「もしかしてあいつの事!?」
頭にヘンリーが浮かぶなり、直ぐさま脇に聳えるイーストを振り向いた。
最上階を繋ぐ連絡橋の連結は、半ば断たれそうになっている。
ターシャは一目散にイーストの玄関へ向かった。
背後から呼び止める2人の声を他所に、行き着いた扉のバーハンドルに手を掛ける。
ところが、どんなに激しく揺らしても開かない。
ガラス越しに、手前の様子に目を凝らすと、施錠のみならず内側のバーハンドルに鉄棒が数本通されていた。
中は完全消灯しており、何やら床に膜が張っている様に見える。
2人が追いつくと、ターシャは叫んだ。
「ここ開けて!早く!」
その時、背後で再び小さな爆発が起きた。
ウェストからの破壊音と共に、地面から振動が突き上がると、みるみる広間の方へ倒壊していった。
ターシャがその光景に目を奪われている間、アマンダとルークはイーストのロビーの解析をする。
「ガソリン!?ここを壊そうって事!?」
「床が浸ってる。
そこら中閉鎖して、密閉に近い環境を作ってる。
ここに火が入ると爆発するから、入らない方がいい。
……何でだ?リスクしかない…」
彼の表情はみるみる曇っていった。
そんな彼もまた、ジェレクと共にイーストから落下した影響で、動きに異音と僅かな電流を立たせている。
無闇にそこへ入れば、一瞬で吹き飛ぶ可能性があった。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
20:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
20:55~ 次回公開作前書き
21:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。