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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#03. Data 闇
17/189

[2]




「電気くらい点けなさいな……下りてらっしゃい」




淡い電球色が灯ると、彼女は部屋に入って来た。

ジーンズが映える細身の体に、マロンブラウンのセミロングヘアをハーフアップにしている。

その姿は、ターシャの体格とよく似ていた。

目の当たりにした散らかった部屋に目を見開くと、そのまま娘に歩み寄る。




「あのねぇ、片付けなさいちょっと」



そう言ってレースを捲って端に寄せると、未だどこか無力な表情で母親を見つめる顔が露わになった。



「何してるのかと思えば、ここで座ってただけ?」



ターシャは何も答えず、窓の外を眺める。

母親はそんな娘の真横に座ると、その頭を優しく撫でた。



「ねぇ…

仕事関係の物は目の付かない所に仕舞っておけばどう?」


「分かってる…」



僅かに震える声が零れる。

先程までの穏やかな自分は、こんなちょっとした事で崩れようとする。



「分かってる…でも体が動かないっ」



終いには少々強く母親に放った事でまた心を痛め、俯いた。

母親はそっと震える娘を抱き寄せると、頭を撫でてはそこにキスをした。



「......週末、ちょっと港や近くの市場を歩かない?」



先程は、僅かだが外へ出たい気分になった。

しかし、今はまた不安になっている。

何度も親友と一緒に出かけた場所に行くと、記憶が生々しく蘇って怖い。



「考えとく……」


ターシャは小さく呟き、微かに滲み出た涙を素早く手の甲で拭った。


「行こ…父さん待ってるね…」



そう言って窓を閉め、母親に少し支えられながらそっとベッドから立ち上がった。

僅かにだが、食欲も湧くようになってきている。

今日は何と訊ねる声は、ドアの向こうに消えていった。







 翌朝、ターシャは久しぶりに夢を覚えていない状態で目覚めた。

随分眠ったのか、体はどこかスッキリしている。

しかし心の方はまだ、何かがつっかえてる様な、重く、疲労を感じる。




下りて来ると、両親の仕事準備のルーティンが目に入る。

本来ならそこに自分も混ざっている。

なのに今日も引き続き、準備もせず軽装で2人を見送るのだ。




「おはよう。ちょっと顔色が良いんじゃないか?」


台所からやって来た父親が、気さくな声で頭を撫でた。

大きな手から体温が浸透していく。

通り過ぎていくとソファに腰かけ、新聞を広げた。



マーケターの父はいつも、スーツ姿で決めている。

今日はグレーだが、まだネクタイは締めておらずシャツのボタンも開いていた。

締めたり、着込んだりするには今日は少々汗ばむ。

同じ髪色の短髪をした頭を軽く掻きながら、何らかの記事と向き合っている。




 ターシャは台所に向かうと、コーヒーの支度を始めた。

そこへ玄関から洗濯物を干し終えた母親が入って来ると、目が合った。



「あら早いのね。暑いわ…半袖がいいんじゃない?」


袖をロールアップする夫に言いながら、母親はせかせかと洗濯籠を置きに奥へ姿を消した。





 台所の窓のカフェカーテンの隙間からは、陽光が強く射し込んでいる。

それを受ける床や台の温度の上昇が、気温の高さを思わせる。

何だか、外に出てみたくなる。

心で僅かに迷う中、電気ポットの沸騰中のランプが消えた。

白い湯気は一気に、挽き立ての香りを立たせる。





 両親はそっと、娘に目を向けた。

一時期、全くそこに立つ事がなかったが、今は陽光を浴びる様になり、血色も良くなっている。


「気分良さそうだな」


「徐々に、ね」


その会話をふとターシャが振り返ると、父親は笑いかけた。


「……何?」


こちらを振り返る娘に母親は微笑み返すと、食卓に着いた。











MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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