[10]
縦に細長い花弁を連ねる、青と紫のアスター。
それよりもやや幅広い花弁を持つ、オレンジ、赤、白の八重咲のジニア。
5輪が手で束ねられると、彼女の手が止まった。
襟に、もう1輪の白いジニアを残して。
ターシャは、目の前の親友の行動に釘付けになる。
アマンダは不意に髪を優しく手櫛でとかすと、その手を眺めた。
そこに絡んだ1本の髪を使い、手慣れた様に何周も茎に巻きつけると、ターシャに差し出す。
ターシャの視界は薄っすらと霞んでいった。
どちらの花も、アマンダが庭で育てていたものだ。
「はな?それが、そう?」
ルークが外を警戒する事を一時止め、不思議そうに瞬きしながら問う。
その様子に驚くターシャもまた、似た表情で言った。
「知ってる事が随分と極端なのね」
「そうか?
俺は、工業技術と医学と海洋生物に詳しい。
君は花を知ってる代わりに、その辺の事は知らないだろう?
変わらないよ」
不意に流れる緩やかな時間だったが、アマンダはターシャの手をトントンと叩き、目を合わせる。
「心配だろうけど、信じてターシャ。助かるわ。
何処へ行っても、貴方と私は、お互い想ってる。
向こうで一緒に居た時みたいに」
共に握る小さな花束が震える。
「私達は、何処で、どうあれ、大事な親友。
それはずっと変わらない。
例え貴方が、こんな姿の私を恐れ、受け入れ難くても、変わらないわ」
彼女はガレージから出た後、解析していた。
自分にはまだ、できる事がある。
イーサンの言葉を機に慣れた格好に着替え、庭に出て準備をしていた。
ターシャは花束を握ったまま、目を拭って言葉を噛み締める。
目の前の親友に放った事を思い出し、胸が痛んだ。
再び、爆音で建物が横揺れする。
ルークが入り口へ近付くと、そこには轟々と壁面を這う炎の光が差し込んで来る。
アマンダはターシャを真っ直ぐ見て、続けた。
「トップはここが長くは保たない事もまた、見越してた。
だからずっと注意を怠らず、段取りして生きてきた。
考え続けるのはいつも、遠い先の事ばかり。
海を延々見ている時は、いつかそこへ消えてしまいそうだって、補佐官は心配ばかりしてた。
彼は長い時間をかけ、先の決断をする」
ターシャは不思議でならなかった。
許されない極悪人が作り出した、アンドロイドのアマンダ。
彼女はしかし、親友である自分だけに留まらず、組織に対しても何かを想っている。
その優しい部分や、見せられたフラワーアレンジメントは、本人そのものと受け入れても良い程だった。
途端、ルークが2人の元へ駆け付け、腕を引く。
「出る!ここもマズイ!」
一体何かとターシャは怯えるが、アマンダは彼女の背に手を回し、3人はそのまま入り口を駆けて出る。
外へ出るなり、明々と炎が全身を照らした。
熱波も強く、ターシャはつい顔を伏せてしまう。
巨大な火柱と化したサウスが、更にウェストへ大きな軋み音を上げながら傾いていた。
黒煙を激しく立てながら、そこからの歪な音は小刻みに縦揺れを起こし、足元を振動させる。
ウェストの頭は更に崩れ始め、飛散する瓦礫はより被害を広げた。
イーストと繋いでいた連絡橋が、ウェスト側だけ連結を断たれる。
そのまま斜めに中庭へ落下し、瓦礫が乱雑に転がった。
対になるイースト最上階が衝撃を受け、振動と共に唸る様な音を立てる。
3人はノースを飛び出し、すぐ近くに立つ敷地の縁に沿って並ぶ柵まで走った。
それに合わさる様に、細かい瓦礫の雨がノースに瞬く間に降り注ぐ。
ウェストは徐々に厚く炎を纏い始めた。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
20:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
20:55~ 次回公開作前書き
21:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。