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#11. Almost done 実行 [15]
「トップ!この煙のせいで、厄介なのが来る!
俺が時間稼ぎするから、早くガレージ行きな」
そう言って再び屋内に戻ると、ヘンリーも即座に中へ入る。
しんとする住居が並ぶ廊下には、轟々と鳴る火災音。
「……様に…なったな…」
「ああ。もう蹴落とさせやしねぇよ」
サウスから轟く複数の爆音など、ヘンリーは見向きもしなかった。
ある日を境に、部屋には何も置かなくなった。
寝床とデスクのみの殺風景な空間。
温かさなど微塵も無く、あるのはこの身と、いつでも持ち出せるように纏めていた拠点の全データのみ。
そう膨大でもなかった。
傍に出されていたのは、黒の耐衝撃性の60Lサイズのスーツケースが2つ。
後は、今手にしているラップトップ1台。
時折部屋が揺れ、軋んだ。
だが、呑気にベッドに腰かけ、高速にタイプしている。
落とし込めていなかった事を思い出し、慌てて液晶に齧りついていた。
幾ら異常なキャパシティーを持つとは言え、忘れる事もちゃんとある。
その流れで、保安官達にこちらの動きも伝えた。
完全消滅もまた、不可能。
確実にこの先、ここの事は掘り起こされていくだろう。
それでも、これらは全て、判断材料だ。
ハッカーの部下により整理されたデータの最終確認を、速やかに終える。
サウスに集合させていたゼロは、直に燃えるだろう。
作業を終え、ラップトップをスーツケースに放り込んだ。
そこには更に、開発した最低限のアンドロイドのサンプルパーツまでもが纏められている。
勿論、新型の顔面パーツも含めてだ。
それらを仕舞うと、彼はやっと窓際に移動し、変わり果てた我が家を見下ろす。
サウスの爆風と、吹き抜け続ける潮風により流れ込んだ火の雨は、瞬く間に広間へ降り注いでいく。
広範囲でみるみる炎を上げ、焼け野原と化していった。
部下達が起動したRの家屋やパブも、火の粉を上げ始めている。
しかし、そこに滞在していた彼等は、早い段階で下のガレージに移動して姿が無い。
ふと、広間の先にある来客船が出入りする船着場に目を向ける。
最も好きだったそこから、また思い出が蘇った。
子どもの頃、当時興味を持ったスケッチに、周りの声が聞こえなくなる程没頭した。
何時間にも渡ってそれをするものだから、数回の脱水を引き起こし、体調を崩した。
シャルに叱られ、取り上げられた事で、それまでの鬱憤も纏めて晴らすように怒鳴り、彼女に暴力を振るった。
祖父の耳にその件が入っても、注意をされるのは自分だけであり、彼女が何かを言ってくる事は無かった。
自分が招いたと言われた、研究所の人手不足。
それを解消すべくゼロを開発し、役立てようとした。
しかし、仕事で人の代わりにロボットを使うという理解を得られず、勝手に処分された事にもかなり立腹した。
歪んだ変わり者の長が最終的に生み出したのは、死者復活研究組織。
諦めていた学びの実践と実現を、この場所で叶えてしまった。
部下とは殆ど接点は持たなかったが、考えなかった事は無い。
ろくでなしの施設であるここを、彼等はいつでも去る事ができただろう。
しかし、決して完治しない傷と、消える事のない犯罪歴を背に、ここで生き続けた。
彼等が向こうで生きていた時。
拘束が解かれ、再び地に足をつけてみても、許された気になどなれなかった。
存在の否定が続き、結局は生きた心地がしなかった。
彼等は、本当は弱くなんかない。
同じように生き、誰かの為になろうと努めていた事がある。
また、そうできればと願っていた事がある。
なのに、どうでもよくなってしまった。
力が尽きる程に、どうでも。
遠くの海を凝視する目は、派手に色付いた小さな群れを捉える。
ヘンリーはそれを暫し睨み付けた後、踵を返し、スーツケースを手に部屋から出た。
微かに煙たい階段扉を開け、1つを滑らせながら螺旋を下っていく。
ただ只管、データを最後まで握って。
MECHANICAL CITY
12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。
最終話
キャラクターエンドクレジット
作者後書き
また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。
X/Instagram(@terra_write)
20:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)
20:55~ 次回公開作前書き
21:00~ 次回公開作発表
感謝はお伝えしたい為、お越しください。
次作は、気が向きましたら是非。