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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#12. Complete 細胞の記憶
161/189

[3]




※約1830字でお送りします。


#12. Complete 細胞の記憶 [1]

保安官達の視線は上空を向いている。

赤い沿岸警備隊のヘリが敷地内を確認すべく

近い距離を緩やかに旋回した。







 「!?」



火災現場から外れたレイシャは、サウスとイーストを繋ぐ連絡橋で目の当たりにしたヘリに、顔を強張らせた。




 彼女の手足、顔には、経皮曝露により僅かな皮膚の炎症が生じている。

限りある防護服とマスクは部下に全て回し、未着用だった。






 ヘリが立ち込める黒煙に視界を覆われている。

その更に向こうからは、小さく複数の厄介者達の船が観測できた。






 最悪で絶望的な状況に全身が震え、冷静さを欠いている。

ここでのあらゆる出来事が、勝手に脳内で再生された。

この場所が失われる。

それを疾うに構えていたヘンリーだろうが、彼女には、彼程の心の準備ができていなかった。

邪魔するなと心底叫びたくなり、自然と体が手摺りに伸びる。






 今でも小さな爆発が続くフロアでは、仲間の大半が負傷し、イーストのガレージへなんとか移動しているところだ。




 薬品が招く歪な炎は、薄青さを混ぜる朱と赤で、あの白を基調とした空間を全て覆いつくしている。

ターシャの攻撃により負傷していた部下2人は、過度な煙の吸引により意識が朦朧としていた。

救助は何とか間に合い、応急処置を受けている部下達のボートは、間も無くここを出る。




 撤退に向けての準備は完了していた。

海洋バイオテクノロジー研究所であるノースや、メインの研究施設サウスとウェストからも、予め持ち出すと決めていた物資を積んでいる。




 蒸気が発生した事で生じる、目と気道への刺激。

皮膚の炎症、嘔吐、幻覚、幻聴にショック。

更に、発がん性物質。

この拠点で備える数々の薬品が混合して招いた惨事は、更に追い打ちをかけて炎を上げた。






 「レイシャ!」




突如、イーサンが彼女に激しく飛び付く。

彼が体を押したのか、爆風が押したのかは分からない。

気付けば2人共、イースト入り口まで大きく吹き飛び、全身に衝撃を受けた。




 サウス入り口が爆風と炎に破られ、高々と黒煙を上げる。

そのまま巨大な火柱と化す光景に、レイシャは更に言葉を失った。

橋は揺れ、軋み音まで上がる。

継ぎ目が揺れる今、ここは落下するだろう。




「立て!」




脇に居た彼に強引に腕を引かれ、そのまま住居であるイーストへ飛び込む。

橋が徐々に、傾斜を作っているのを振動で感じた。






「彼は!?」



「下で落ち合う!」



イーストでは、有事の時以外にゲートは開放しない。

現状から正に必要とされるそこは、緊急脱出ルートだ。




 警報が鳴り響く階段を、2人は無言で駆け下りる。

激しい息遣いだけが尾を引き、螺旋を真下に描いていった。

薄暗いそこは、外からの爆発音を再び受け、横揺れする。




 混乱するレイシャを気にして、イーサンは時折彼女を振り返る。

頭の中では、爆発前に話していたヘンリーとの通話が勝手に思い出された。




………


……




……


………




 レイシャを介して出された撤退命令を、部下達は一時無視した。

全員が、消火できる可能性と意地に縋った。




 しかし、結局手に負える訳が無いと思わされた時。

レイシャは突如、フラフラと連絡橋へ出て行った。

もう、司令塔としての役目を果たせなくなっていた。

まるで何かが、膨大な速さで彼女の正気を奪っている様に思えたイーサン。

現場で幾度となく彼女を呼んだが、全く届かなかった。




 被害が拡大するだけの状況だ。

彼は全員に改めて撤退命令を放ち、イーストへ促す。

その後、不安定な彼女を追いかけたのだが、スマートフォンが鳴り、ガラス扉を出た所で立ち止まる。




「何処に居るんだ!?もう出るぞ!」




出るなりヘンリーに吠え飛ばすと、酷く咽せ、息が上がった。

ガラス扉横の壁に背を預け、返事を待つ。

しかし、彼は相変わらずの物言いで、命のリスク回避を優先するよう指示するばかりだった。

それに苛立ち、イーサンは強引にその緩やかな発言を遮る。




「馬鹿にすんな!んな事分かってる!

でも簡単に何でも従えねぇんだよ!

そういう人間の集まりだっての、分かってんだろ!

あんたが選んだ部下だ!

ここは居場所だった!あっさり見放せねぇんだよ!」




また、やってしまった。彼は直ぐ後悔する。

落ち着けと、背後の壁に拳を叩きつけながら言い聞かせた。

悔いと怒りに震えながら、小さく謝罪する。

それでもヘンリーは、後に自分が合流する事と、整ったボートから出させるよう静かに伝えるだけだった。




「もう全員下りてる…さっさと来てくれ…」




通話は無言で断たれ、イーサンは深々と溜め息をついた。

その後、棒立ちになるそこに熱波が襲い掛かる。

このフロアを中心に、サウスは巨大な揺れを起こした。

不意に舞い込んだ爆発の兆候に彼は目を剥き、反射的に踵を返す。

そのまま、連絡橋でしどろもどろするレイシャに瞬時、飛び付いた。




………


……










MECHANICAL CITY


12月5日 完結。18時に以下の3投稿を致します。

最終話

キャラクターエンドクレジット

作者後書き


また、SNSにて次回公開作品の発表を致します。

X/Instagram(@terra_write)

20:50~ 完結後 作者感謝メッセージ(必読)

20:55~ 次回公開作前書き

21:00~ 次回公開作発表


感謝はお伝えしたい為、お越しください。

次作は、気が向きましたら是非。




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― 新着の感想 ―
[一言] 追いつきました! 燃える洋上に聳える異端者の塔! といった急展開!! 行動を起こしたターシャも危機に陥りそうですね。 ターシャも罪に問われそう。 トップも職員も、アンドロイド達もそれぞれ…
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