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※約1800字でお送りします。
#07. Cracking 処分 [12][15]
シャルの破壊処分の最中、連絡橋からWestロビーにやって来たターシャ。
その後、レイシャと遭遇した場所です。
#11. Almost done 実行 [5]
研究室を放火した後、連絡橋に出ると、Westと記されたそこに向かって駆けた。
ウェストに入ったターシャの足は、一層早まる。
誰も居ない、サウスと似た廊下を駆けると、階段扉を発見。
そこに飛び込んだ。
再び薄暗い所を駆け下りる中、咳と嗚咽が続き、足が縺れ、転倒。
だが、尚も立ち上がる。
2つの“走れ”という言葉が木霊していた。
諦める訳にはいかないと、背中を押すその声を信じ、突き進む。
1階に辿り着き、ロビーに繋がるであろう扉が目に飛び込んだ。
フラつきながらノブに手を掛け、大きく押し放つ。
ロビーに駆け出すなり、また転倒した。
電球色がぼんやり灯る空間。
冷たい大理石の床に、薄く自分の影が落ちている。
殺風景なそこは数時間前、発言に激しく温度差を見せる女と、保安官達の戦いを目にした場所。
息を荒く立てながら包み泣き、目の前の玄関から見える光を求める。
誰も来ないのではないか。
不意に弱気になる自分を拭おうと、頭を振る。
勝手に零れる涙は顔を濡らし、先程よりも視界がぼやけていた。
煙の影響もあり、視界は更に歪み始める。
手足が増え、残像と化し、透けて見えた。
鼓動は全身を打ち、脳が揺れる感覚に陥る。
それでも起き上がった。
目の前のガラス扉から、光が射し込んでいる。
ターシャは艶やかな床を蹴り、ようやく、地上へ飛び出した。
これまでよりもいい空気が鼻に抜けていく。
汗ばんだ体を、潮風が這って冷やした。
勢いよく飛び出した足が、急停止する。
正面や左右を見回したそこへ、真横からの気配に大きく振り向いた。
そこに影が現れ、彼女は瞼を失う。
射し込む陽光をレザーに受け、光沢を瞬時に見せる。
それは移動と共にサングラスに移り、奥のダークブラウンの瞳が垣間見えた。
ビルは、ターシャの荒げる息をスライド音で断ち切り、左手でピストルのマズルを向ける。
それに、一気に血の気が引いた。
彼はそのまま急接近するなり彼女の肩を掴むと、ガラス扉まで押しやる。
そして、その首に右腕を横に噛ませ、喉を押される彼女は声を奪われた。
息を吸うべく反射的に彼女が口を開けた時、彼は左手にしていたマズルを捻じ込む。
涙の悲鳴が上がり続ける。
ターシャは縋る様に、両手で彼の腕に必死に掴みかかって抵抗する。
殺さないなど、嘘ではないか。
不意に過ったルークの言葉は消える。
ビルは、どのアンドロイドよりも精悍に見えた。
状況によっては漲る殺意も異常であり、正に今、それが犇々と歯を通して伝わってくる。
その態度は、ただ相手がターシャであり、何も出来ないと端から見切っていると言う訳ではない。
それ以上の何かが常に彼を達観に導き、勝ち誇っている様を滾らせていた。
「してやったか、ターシャ・クローディア」
口に捻じ込まれたマズルに、歯がガクガクと叩きつけている。
「お前の行いもまた、認められる防衛か」
しかし、彼女は表情を変えて見せた。
抵抗する両手は震えても、力を緩める事はせず、有りっ丈の怒りを込めて睨みつける。
「お前が放った火をどうにか救助者と突っ切り、脱出できた2人は薬品による暴露や、全治数週間の火傷で重症だ。
あの場の延焼は凄まじく、言うなれば火の洞窟。
10秒遅ければ爆死だ。どうだ、残念か」
激しく震える口から、唾液が伝う。
ここを燃やし、煙を上げる事で外部に知らせたかった。
燃え広がり方は目まぐるしいものとは言え、この場所は命の危険を感じてならなかった。
守りたいが故の反発だと、ただただビルを睨み続けた。
「ああそうだ。我々は、罪人。
故にお前は、ここが存在してはならないと判断し、己の策を実行した。
向こうがそんなお前を認めるならば、結構。
だが、どんなにお前が認められようと、事実は変わらない。
お前は、人を殺しかけた。
怪我までに留めるだけでなく、不要な放火をした。
負傷者は更に出る。
それがお前という正義の望みならば、こちらも出方を変える」
トリガーに触れる微かな音がした。
ターシャは青褪め、みるみる目は乾いていく。
「かっけぇーなー…そちらさんはよぉ……
俺がもっと…つえーもんにしてやるよ……」
握るピストルもまた、震えた。
声をそのままに、ビルは意味深に低く溢す。
喉が震える様なそれは、Rとは思い難い。
貫く眼差しは彼女を見ている、のではないのか。
「お前が我々の罪に対し、とやかく言うのはここまでだ。
何故ならもう、お互い変わらない」
口調を戻した彼はマズルを更に奥へ入れ込み、ターシャは嗚咽する。
刹那、疾風が互いの間を切った。
飛び込む素早い動きは、瞬く間に決まる。
ターシャの視界に、フワリと花の香りを含んだココナッツブラウンの長髪が、潮風に靡いた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。