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#08. Reboot 脱出 [7]
緩やかなピアノが奏でる旋律に、横からヌルリと交わるのはサックス音。
それが生み出す空気には、レースカーテン越しに僅かに射し込む陽光など、明らかに不釣り合いだ。
見合う時間も取らせまいと、ジェレクは咄嗟に床の本を数冊ルークに投げ、視線を妨げる。
その全てを華麗に躱したルークは、絨毯を引っ掴み、激しく手前に引き込んだ。
それにバランスを崩し、ジェレクは尻もちをつく。
ベッド、サイドテーブル、コンポに混じったジェレクは、忽ち共に引き摺られ、ルークの正面に。
向き合った数秒、あぐらの姿勢になったジェレクは彼を睨め上げる。
何がしたいのかと言いたげな雰囲気に、ルークは目を瞬かせていた。
ジェレクは両手を床に付け、左足でルークの腹、胸骨と蹴り上げ、立つ。
そのままルークの両肩に飛び掛かり、窓辺へ導こうとするが、またしてもそれを遮られる。
ルークもジェレクの両肩を掴み返し、手前に反動をつけるとベッドに投げ飛ばした。
衝撃でベッドは分断され、ジェレクは腰から沈み落ちる体勢になる。
ルークはそれを見届け、退室しようと玄関に数歩向かうが、ジェレクのリカバリーは早い。
彼は即、ルークの襟首を掴んで前進を阻止し、そのまま窓横の壁に向かって投げ飛ばす。
ルークは壁に減り込み、床に俯せで崩れ落ちるが、すぐさま中腰になった。
ジェレクは分断したベッドを軽々飛び越え、ルークの胸倉を掴むと窓に誘導する。
そこへ、これまで露出したままだったルークの目の銃口が、自動的に仕舞われていった。
未使用の状態で放置されていると、早い段階で勝手に収納されていく様だ。
窓に追い込まれたルークはとうとう、背面から叩きつけられ、倒される。
ガラスの破壊音は凄まじく、鳴り続いている場違いなメロディーを切り裂いた。
胸倉を掴むジェレクの手を、両手で歪み音を上げながら抵抗し続ける。
その間を、蛇の如く縫って紛れ込むサックス音。
気付けば、弱々しく控えめに混ざり合う様に奏でられていた旋律には、活気が出ていた。
ルークの抵抗は一層強まる。
ジェレクは、彼を真下に居るターシャの元へ落とそうと、その上半身を更に外へ押し出していく。
ルークの両手はジェレクの胸倉に移り、このまま巻き込もうとする。
ジェレクは首から引かれた事で、窓に半端に残るガラスに激しく衝突。
破片の雨は陽光を受けながら飛散し、美しく降り注いで消える。
ルークの引きに抗おうと、ジェレクは窓枠に足を乗せ、踏ん張る。
ルークの腰は窓枠に乗り上げており、落下寸前だ。
ジェレクは巻き込まれるまいと、掴みかかっていた両手を解放し、両側の窓枠を掴んで身を固定。
ビル風が真横から、陽光と共にふっ被る。
乗せられる黒煙に混じるのは、刺激臭。
複数混合された薬品による有毒ガスが発生していた。
そこへ
「………そっ…か……君が誰か…分かったよ…」
ジェレクとかなり接近する体勢になっていたルークは、とうとう細胞から他との一致条件を洗い出し、認識した。
ジェレクは窓枠から両手を離し、ルークの首に掴みかかる。
だが、手放された事で、ジェレクの固定が解かれてしまう。
2体のバランスは崩れ、頭から落下した。
互いが空間を高速に縦割りしていく。
重い体重により、落下速度はみるみる加わった。
その最中、着地の向きの争いが続く。
地面はもう、直ぐそこまできていた。
※これにて大きなアクションは終了になります。
初の試みでした。まだまだ修行致します。
後は小出しになりますが、まずはここまでの描写に
お付き合い頂き、ありがとうございました。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。