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※約1630字でお送りします。
「無駄か。
発言の前後から解析すると恐らく、必要が無い、という意味としておくか。
であれば、何でだ?
無駄なんて事は、本当に有り得るのか?」
ヘンリーはその言葉で、何かを思い出した様に目を見開く。
一方ルークは、怒鳴った事を一時置き、一切データが存在しないヘンリーを探り始めた。
「デスクに式が書かれた紙がある。
それで例えるならば、目的に帰着する為に数々の工程を踏むが、そこには必ず記号もある。
それらが無ければ辿り着けない。
この例から、必要が無い物なんてのが、本当にあるのか?」
互いの目が合う。
不思議だった。錯覚であれ信じ難い。
ガラス細工のルークの目は、微かに震えて見えた。
「復活実験の為に、向こうのルールに背いて罪を犯す選択をしたにしても、そこには必ずファクターがある。
否定されたとしても、その先に残る物があるだろう。
それは正であれ、誤であれ、だ。
この場所や組織というデータは、人や環境、つまり未来に影響を齎す可能性もある。
トップが無駄であるならば、部下はここに居ないだろう。
部下が無駄であるならば、トップもまたここに居ないだろう。
必要が無いという表現は、未来も機会も無いという事もまた、意味できる。
………これも、目に見えない物について考えるって事か?」
どこか宙を見て、円らな目を瞬かせている。
そこにはまた、ロンの姿が映っているのか。
サイレンが止む事の無い、暗い空間。
そこに漂う異臭の靄の奥で、ヘンリーは目を閉じて笑った。
生まれるのが早過ぎたか、否か。
今更どうでもいい事が、ふと過る。
今の向こうでは一体、目の前の彼はどう受け取られるのだろうか。
今にも崩れそうな足で、体を支え直す。
怒りをぶつけたルークだが、体勢を整えようとするヘンリーの肩を掴み、それを補助しながら言った。
「この生き方を選択したのは、確かに部下やトップ自身だろう。
だが、その選択をする事になったファクターは、本当は何だ?
特にトップを実際に見ていても、コードを見ていても、妙だ。
……………ヘンリー・クラッセン。
君は…もっと違ってたんじゃないのか…」
間を置き、ルークは言葉を待ち続けるも、彼はまだ、何も言わない。
「家族が居ないとトップは生まれていない。
何でだ?
ターシャが言う、愛されたという事に経験は無いのか?」
そう。
そうやって何でも、気になると問い質してしまう。
その目はいつだって真っ直ぐで、悪意など無い。
無かったのだ。
「…………あれは模範的な幸せもんだ……
殺意を抱く様な生き方とは無縁だ…」
口が、勝手に動いた。
充満する異臭の影響で、頭痛に目が眩み始めている。
「殺意……さっき俺が示したものか……
何でそんなものを抱く様になったんだ?」
崩れて粉々になった過去が、揺れながら、弱々しく形成され始める。
そしてまた壊し、無かった事にしようとする。
そんな葛藤の繰り返しは、全身が疼く。
「心拍が上がってる……
それ、あまり息が整わないだろう。激痛か。
抑制するのに震えている……それは……
表情筋の様子を見る限りだと、本当は寂しい……
ずっとその繰り返しをしていて…
眼振があるのは、怒りもあるけど…悲しい、か。
でも涙を流さず睨んでる。
ターシャは全て表に出し、次々表情を変えていた。
熱や震えも、それをする事で落ち着いていて、声も通ってた。
でも、トップはそれをしない。
してもいい筈だよ。部下達もしてた」
汚れ切った今、それらもまた不要だろう。
ヘンリーは疲労に満ちた顔のまま、やっとルークに横目を向けた。
「………力や歩幅を合わせる事……
過度に問い質さない事……
求められる存在であり続ける事……
その為に…持っている物を仕舞い…
己の改新に向けて耐える事……
全て従うべき事だった……
そうして得た………最高の愛情だろう…」
終いには声と視界が揺れ、力無く笑って見せた。
見え隠れする記憶は黒い砂嵐と化し、それらは拭われまいと纏わりつく。
ルークは、彼の体と、光を失った眼差しに目を凝らす。
「その、言てるそれらも愛ならさ、トップの家族も、トップの為にそれをした?」
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。