表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#11. Almost done 実行
151/189

[12]




※約1700字でお送りします。







 「撤退なら、トップも早く準備した方がいい」




ヘンリーは何も言わず、スマートフォンを抜く。

だが、手はダイヤルしかけて止まった。




トラウマによる息切れが小刻みに零れ、発声をやはり邪魔してくる。

一時目を閉じ、指令を送信する事に切り替え、文字を高速にタップし始めた。

この場に掛かる靄に濃さが増し、薬品の臭いが入り混じる。






 その時、ルークはヘンリーのラップトップに目を向け、ある事を問う。




「ターシャを植物人間にしたのが俺だって、本当?」




その声にヘンリーは、黙ったままラップトップを彼の方にそっと寄せた。

数秒それを見つめたルークは、キーボードに触れ、遺体データを探っていく。

そこからターシャと自分のデータを開き、照合した。






「……そうか...接触してしまったのか。

そして、俺は転落してそのままここに運ばれてきた。

だから家族を知らない。

彼女が言う家族ってのが、俺が思うものと一致しなかったのはそういう事か」






 ヘンリーがジリジリと流し目を向けた時だった。




まるで疾風か。

瞬時、部屋に籠り始める異臭が途切れる。

観測が追い付かず、サイレンが鳴り響く空間は刹那、激しい打撃音に消された。








 ルークの左手はヘンリーの首を掴み、レイシャのデスク横の曲面ガラスに叩きつけていた。

またヘンリーは、左手でそれを掴んで制御している。

互いの利き手は、軋む程に震えていた。








 殺してやる。

殺させやしない。

その2つが衝突し合う中、ヘンリーは小さく苦笑を浮かべた。




やってしまった。

こんな感情まで、彼に伝えてしまったのか。








 ルークの握力と打撃で、人間であるヘンリーは容易く即死させられるだろう。

しかしまだ、彼はそれをしていない。

ヘンリーの手は、ルークの手首に加えられる限りの力を込め、握力に制御をかけ続けた。




「彼女は言った。

亡くなった人は、遺族に安らかに眠れる様に祈られながら、火葬や埋葬されるものだと。

しばらく考えてみて、思ったさ。

それはきっと遺族も、亡くなった人に告別し、落ち着いて先を生きる為に、そうやって整理をつけるんじゃないかって」




互いの力は緩まない中、ヘンリーは、無言で彼の言葉を聞いている。

その顔には汗こそ流れているが、どこにも焦りが無く、目は闇に落ち、虚ろだった。






「あの島のオーナーは、人には其々、繋がりがあると言った。

俺には俺の家族が居る。

つまり、俺の家族は俺と対面できず、整理がついていない可能性がある。

それはまた、彼等を悲しませている事になる」






ルークの顔は顰め面になっていく。

他とは違う搬送手段で自分がここに来た事を、改めて確認した。

ヘンリーの首を掴む腕は、みるみる痙攣を起こし始める。






「………えっ……せっ……」






その言い方にヘンリーが目を見開き、咄嗟に左腕の装着口を掴んだ。

途端




「何で返さなかった!?

返せよっ!俺を直ぐ返せよっ!」




その怒鳴り声は、あの時のアマンダから学習したものだった。








 ルークが元の表情に戻るのに2秒以上要し、やっとヘンリーの首が解放される。






 自分が殺されるべき者と分かっていても、彼にそれをさせる訳にはいかなかった。

そればかりは腕を壊してでも、阻止したかった。




だが、今はすんなり解放された事に驚いている。

右手で首に触れ、荒い息を吐きながら目を逸らした。

ルークは手を2回払い、片手を腰に当てる。






「補佐官は…変わったのか……」






ヘンリーは壁に背を預けたまま、俯き、小さく咳払いした。






「………俺が……そう…した…」






ルークは何も答えず、ヘンリーを細部に渡って観察し始めた。






「………俺の解析は…するな……無駄だ……」



「むだ?何だ?それ」



あまりいい意味に感じ取れないと見て、眉を寄せる。

その返答を得られなかったルークは、そのまま解析を続けた。






「俺が怒鳴る前の言葉で、義手の装着口に触れた。

目の色も急に変わった」




何事も無かったかの様に、疑問の仕草を見せながら続ける。




「その手にも結局、満足してないな。

今までの様子や、さっきの俺の言葉に対する反応を見る限りだと、返して欲しい、か。

また、俺の呟きもきっと、誰かに言った事がある、もしくは同じ様に呟いた事がある。

その気持ちは今も継続し、解消されていない。

ずっと痛くて、苦しいままだ」




ヘンリーは、焦燥に震える目を閉じていく。




「もういいっ……無駄だっ……」










MECHANICAL CITY


本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ