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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#11. Almost done 実行
150/189

[11]



※約1850字でお送りします。







 サイレンのけたたましい音と、点滅する赤が、暗い持ち場に入り混じる。

それ以外に何も無い空間で、ヘンリーはふと、これまでの様子をじっと眺めていたルークを振り返った。




「………あの子の位置は…」




「火災現場から離れて、ウェストに向かってるみたいだな。

吸入曝露や経皮曝露はあるだろうけど、移動ができる程だから命に別状は無いよ。

多分このまま、ビルとアマンダと合流する。

彼女もまた、随分なものだな。

許せない事があると、こうなるのか」




ヘンリーは間を置き、それに小さく頷く。

許せない事がある事で何が起こり得るか。

それもまた知っているが故の、それだ。








 ヘンリーはデスクのラップトップを開く。

ルークはそこに近付くと、首を傾げた。




「何でだ?リスクがあるのに」




この事態を他所に2人は、冷静に話しを始める。

素朴な質問を横に、ヘンリーはある作業に入る。






 ビルから返却されたコンパクトデータコレクターのコネクター部品を、コンピューター用に取り換え、挿し込んだ。

何か準備をしていたのか、キーボードを打つのではなく、クリックパッド上で手先を動かし、複数の纏めていたファイルを移動させている。






「…………君が…向こうで話していた事に似てる……

それとは別に……強い感情もあるが…………

あの子は既に…貫き…やり遂げる事を決めている……」





作業から目を離さないまま、一呼吸置いて続けた。





「…………ここの決定と同じだ……

中身こそ…違うがな……」





彼のこめかみからは、汗が一筋流れ落ち、デスクの影に消える。





「…………決定や宣言を貫く事は……

肯定的に捉えられ……

多くの場で…承認も得やすい……」





別の画面が開くと、そこにもデータが次々と出現した。

それを全て選択し、次々と挿し込んでいるそこに移していく。

容量の都合で数秒かかる間、前屈みになっていた上体を起こし、進行状況のゲージを見下ろした。





「…………また一方で……

行動の選択を広げる必要が無くなり……

状況に応じてどう動くか…

自然と決まるようになる……」





画面にコンプリート表示が出ると、疲労を見せる目を左右させながら、最後の移動作業に入った。





「つまり……

既に…ここを壊し…

我々を察に突き出す事を決めている彼女は……

それに向かって…進む事だけに意識する………

何かを決める事もまた…1種のストレス……

それをする頻度を削減する……

それもまた…メリットだ……

深く考える必要は…彼女にはもう無い……

この地でならば…特にな……それに…」





データの移行作業が完了するとそれを抜き取り、ポケットに再び仕舞いながら、ルークをそっと振り返る。





「…………俺の声は特に…もう……聞こえないよ…」



言い終わりには、力無い笑みが含まれていた。








 ルークは黙って聞く最中、何かを返答する事もできただろう。

だが、それよりも気になる事があった。




「……ずっと隠してる。

さっきから、痛いんだろう?」




彼は解析でき、また、してしまう。






 もう、部下はここに来る事は無い。

ヘンリーは堪える事を一時止め、デスクに両腕を付くと大きく項垂れた。

息を整えようと、深呼吸をする。

倒れる訳にはいかない。

こめかみから伝った汗を、顎下で拭った。






 この事態に驚きはしたものの、この生き方を決めたと同時に、長続きしない事もまた、分かっていた事である。




 いつか、遂に己が豹変し、崩壊したあの時。

ただでさえ有限である命を、自ら更に削った。

そうと分かっていながらもやはり、焦燥と悔いは込み上げる。




 ビルのデータを介して耳にした、外部の人間による発言は、封じている過去を再び抉り出した。

これもまた予想外で、もはや笑えてくる。








 ルークは瞬きしながら、そんな彼に真っ直ぐな眼差しを向けていた。

声も無く笑っていたヘンリーは直に、目を閉じて溜め息をつく。




 隣の彼が見せる顔に、仕草に、声に、結局苛立っている。

否定されたそれらだが、そうであった事も忘れる程に、求める様に思い出しながら手掛けた。

ほんの些細な、幸せであった時の事を。

その頃を細部に渡って、何処までも解析してしまった。






 指示に従うばかりではないSystem Real/Ray。

目指してきた生々しい再生に、最も近い存在。

それでもやはり、偏った。




疑問を呈する事や、痛み、苦しみは容易く表現でき、それらの反映は悉く速かでならなかった。




 レアールやジェレク、アマンダ、広間で過ごすRには、部下だからこその反映がなされている。

彼等や、自分には無い彼等が持つ能力は貴重であり、どんな形になろうとも維持されるべきだ。

失くす訳には、いかない。




ヘンリーは、目の前のラップトップの液晶を睨みつけた。









MECHANICAL CITY


本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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