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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#02. Loading 死別
15/189

[5]




「ねぇ」




視線を正面に向けた。

今、こうして冷静に寄り添ってくれているのは、リンダという心強い同僚である。




「ぶちまけなよ。ここにあるもん全部…」



そう言って、ターシャの胸を人差し指で小さく叩いた。

ターシャは背を向け、缶コーヒーを握る手を手摺りに預ける。





 そこからは、如何にも生きる事に疲れているオーラが立っていた。

リンダはただ、静かに言葉を待ちながらコーヒーに口を付ける。





「………どうしたらいいの」



今にも風に掻き消されそうな震える声を捉えると、口を離した。



ターシャは、まるで宙を放浪する様に空を見上げ続ける。

そんな彼女の様子にリンダは悲愴な面持ちになり、手摺りにかけられた手をそっと包み込んだ。

空を見上げたままの廃れた目から、涙が伝い始める。



「ターシャ…」


「死んだんだよ…親友が…」


知っていたリンダは俯き、小さく頷く。





 ターシャはふとリンダの手を退かすと、体の向きを変え手摺りから離れた。

リンダは自分から僅かに遠ざかったターシャの小さな背中を眺める。

その肩は震え、勝手に溢れ出る涙を止められなくなっている。





「あの子……あたしの目の前で死んだんだよ…」





突如、当時の映像が抉り出された。



「あたしだけが助かって、あの子は死んだ!

あたしが落とした、たかが紙切れ1枚を拾いに道路に戻った、あの馬鹿は!」



語気が強まると共に振り返ったその表情は恐ろしく、リンダは居ても立っても居られず彼女に抱き付く。

しかし、大丈夫だと必死に慰める声は届かず、彼女は両肩を掴まれ、背中に激しく手摺りを受けた。

その衝撃でターシャが手にしていた缶コーヒーは、向こうの都会の海に放たれる。



咄嗟に掴もうと手を伸ばしたが、間に合う訳が無かった。



それはそのまま真っ逆さまに落ち、消えた。

その光景は、あの時目の前で飛んだ親友の事故の映像を更に呼び起こす。




柔らかな長いココナッツブラウンの髪に白い肌。

スタイルが良かった彼女の満面の笑みが露わになると、突如喉が締め付けられた。




呼吸困難に陥り、消えた缶コーヒーに向かって伸びていた腕は力無く引かれ、体はその場に崩れ落ちた。

リンダは心底辛い中、その縮んだ背中を擦って抱き寄せる。




「見た…?」


小さな囁きに耳を澄ませようと、リンダは彼女に顔を近付ける。


「あの時と同じよ!あの時と全く同じ!」


声を震わせ激しく振り向くと、大声を上げ始めた。


「ああやって手を伸ばしたのに!

近くまで駆け寄って手を伸ばしたのに!

あの子ったら…あの子ったらもうっ……

気付いたら目の前に居なくてっ…!

今みたいに消えちゃってっ…!

あたしはあの子を助けられなかったっ!」


「違うよそうじゃない!」


忽ち己を責め始める彼女に焦る。


「あたしがあの子を殺したのよ!」


天を突く様に放たれた金切り声を浴びながらも、リンダは叩いてくる拳を受け止め、言った。


「そうじゃないよターシャ、そうじゃない…」





 そして、そこからはもう、何も放たれる事は無かった。

ターシャはただ泣き崩れ、頭の中では親友を亡くした瞬間が何度もリピートされる。

遂に彼女は自分の足で立てなくなり、リンダが部署から応援を呼ぶと休憩室まで運ばれた。






 その後、早退が決まるが親の迎えを拒み、1人で帰宅する事になった。




部長が心配しながら会社の前でタクシーを呼び止める。

ターシャはよろめきながら乗り込んだ時、彼はドアが閉まるのを遮ると言った。



「落ち着いたら連絡するんだ。

それまでは一旦、仕事の事は忘れろ。

心配するな、君の居場所はちゃんとある…」



彼女は絶望する表情を残したまま僅かに数回頷くと、去った。











MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 部長さんが意外と優しい。 [気になる点] 缶珈琲の行方。 [一言] この後悔が一体どんな形になっていくのか、ターシャの心の変化も気になりますね。 リンダみたいなお友達がいて、良かった。 欲…
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