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#07. Cracking 処分 [14]
レイシャ過去最終 末尾にて
…………最終判断には………絶対従え……
ビルは向こうでの事と、引き起こされた火災から判断し、武器庫の扉へ移動した。
施錠を強引にこじ開けた破壊音が弾けると、ジェレクもそこへ向かい、軽装備を整えていく。
「どうする」
ジェレクの確認する声にも振り向かず、ヘンリーはまだ黙っている。
火災は予想外だったが、策が変わる事は無い。
「負傷者の救助と部下の誘導に回れ……」
ジェレクは颯爽と退室した。
それに続いて、ビルがドアまで移動しながら確認する。
「外は」
その場には薄い煙が漂い、警報ランプがぼやけて点滅していた。
「最悪が起きても…脅しに留めろ……」
肩越しに振り返っていたビルは、靄が掛かる奥に姿を消す。
レイシャは声も無く焦っていた。
レアールは彼女を横目に、ヘンリーに静かに尋ねる。
「そう…撤退……
統一して入れられた不明瞭な指示は、この事……
いいのかしら?」
念押しする声に、ヘンリーは暫し黙る。
居合わせている2体は、ヘンリーを解析していた。
高まる熱と鼓動。滲み出る冷や汗。
血圧が上がってきており、微かな眼振が見られる。
それを誰にも見せまいと俯いたまま、やっと口を開く。
「整ったボートから出せ……後の指示はまた言う…」
レアールは数秒の間を置くと小さく頷き、部屋を後にした。
「レアール!?
……待ってよ、まだ積めてないものだってある!」
組織は既に、それを実行する準備に入っていた。
だが、出るには未だ不完全である。
それでもヘンリーは、騒ぐレイシャを左手で部屋の入口まで引っ張ると、告げた。
「それより大事な物がある……早く下りろ……」
彼女の見開いた目は不安と寂寥に満ちていた。
「………忘れたなんか……言うなよ……」
レイシャは思い出していた。
ここを改装した事で、組織が本格的に動き始めた。
その場所が今、焼け崩れようとしている。
その怒りを、どうしても直ぐには拭えなかった。
こんな状況でありながら、ヘンリーが合わせてくる眼差しは冷静だった。
彼は直に、抵抗していた彼女の手と口を解放する。
「下りて…誘導してやれ……
整い次第出ろ…待機は絶対にするな…」
そう言いながら背を向けると、咄嗟に手が彼の服を掴む。
「私達は最後よ!だから、早く来てっ…」
彼は振り向かない。
しかし、ハッキリと頷いた。
それを目にすると、彼女はやっと立ち去った。
各々の配置に向かう保安官達。
ビルは階段を下り、中庭から広間で待機に入る。
ジェレクは、途中の階段扉から火災現場へ向かった。
レアールは、微かな黒煙が風に乗って流れる中、イーストへ続く連絡橋で暫く立ち尽くしている。
ブラウンの切れ長の目を陽光に光らせ、髪からは花の香が漂う。
立ち込める焦げた臭いに、それは混じった。
目の前には、イーストに続く白い橋。
彼女はじっと、そこを凝視した。
途端、姿勢を真っ直ぐに整え始める。
軸足を維持しながら、1歩1歩を美しく、丁寧に刻む。
肩甲骨を寄せる事を意識しながら、大腿にやや触れる程度の控え目な腕の振り。
洗練された身のこなしだ。
半ばまで来て、斜め立ちで軽く足を開き、止まる。
数秒経過し、再び歩き始めた時、躓いた。
しかしもう、転倒はしない。
バランスを取り、立位を保つ。
ここは焼ける。
残された記憶を流すよう、彼女は真横に広がる大海原に流し目を向けた。
要らぬ思い出も、レイシャは残している。
過去が消える事は、無い。
レアールは、小さく笑みを浮かべた。
どこか物寂しくも感じられるそれは、悔いか。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。