[9]
数秒経過した後、ルークはヘンリーに向き直る。
「アンドロイドに関しては、プロファイルと生前のデータ。
部下達に関しては名前、特性、それとの向き合い方。
傷がある人はその箇所と、治療歴。
1人1人のデータが存在し、内容は実際、体を見ても本人達と一致する。
よって、嘘ではない。
ただ1つ妙だ。
一部保安官のデータは半端だ。
そして、何でだ?
トップのデータはどこにも無い。
モニターしておいた方がいい事だけだが、それは拠点内全員に言える筈」
ヘンリーは表情1つ変えず、彼に頷くだけだった。
様子からして、続けるよう捉えた彼は、更に考えを口にし始める。
「俺達がする任務は現時点では外部では受け入れられず、長くは保たない。
ターシャが向こうでした発言から何が起こり得るか、その様子からしてトップは早々に分かってるな。
現段階で解析できないのは、皆がこの生き方を選択した理由と、しあわせと、たのしくてってのと、家族。
判断するには情報不十分だが、予測するなら……
ここでも痛みは結局あるにせよ、組織にとっては、あっちに居た頃に受けたモノとは比較にならない、か。
ターシャが言う、愛するってやつがこの拠点で成立したから、痛くても平気になれるのか。
しあわせも多分、愛するって事と同じかもしれない。
たのしくてってのと含めて、恐らく笑顔とリンクする可能性がある。
島のオーナーがしていた顔や話し方が例だろうな。
俺も実際、その顔を覚えた。
家族に関しては彼女から聞きはしたけど、俺の意味する物とは違ってるって事が、彼女の顔と温度から判断できた。
どれも正確ではないこれらを、よくある言葉で例えるならば、曖昧、或いは、こういう事にしておこう、ってやつだろう」
実に流暢で違和感が無い様子に、部下達は圧倒される。
ヘンリーはルークから目を逸らし、黙りを貫いていた。
試験起動中の彼。
だがそもそも、偏り、抜け落ちている。
彼はそれを埋めるべく脱走し、情報収集を優先した。
また、それをヘンリーに報告する為、仲間の保安官に反発し続けた。
そして、組織のシステムの改善を提案した。
ヘンリーはやっと鼻で笑い、視線を床に落とす。
途端、サイレンが鳴り響く。
皆は動きを止め、天井から部屋一帯に目を走らせた。
イーサンのスマートフォンが鳴り響く中、レイシャが慌てて廊下に飛び出す。
警報音は轟き、火災ランプが煌々と照らしていた。
フロアの窓に激しく張り付くと、目に飛び込んだのは、真下から轟々と上がる黒煙。
「はっ!?何でよ!?」
声を上げ、その窓を僅かに開ける。
臭いで直ぐに分かった。
薬品に引火している。
口で鼻と口を覆い、真下を大きく見下ろした。
この塔の半ばからだ。
「あの餓鬼が放火した!
連れてた2人が負傷して、まだそこにいる!」
連絡を受けたイーサンがレイシャに放つと、階段扉に慌てて姿を消す。
それに他の部下達も続き、救助と消火に向かうと言って去った。
レイシャがヘンリーの元に戻ると、彼は予想外の事態に目を見開き、立ち尽くしていた。
それでも、それ以上の動揺は見せない。
じっと静かに、策を編み始めた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。