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点検を終え、コンピューター室にジェレクと戻った部下が、上層部の凍てついた表情に顔を強張らせる。
「へぇ、本当だ。
2秒なんてもんじゃないな。
随分経つのにまだ続いてる」
背後から、レザーで締めた保安官の服に着替えたルークが言った。
濡れた体を拭いていたバスタオルを頭に被ったまま、両手をポケットに入れて立っていた。
無垢な表情に合わさる清涼感ある声に、ヘンリー以外が視線を向ける。
横ではビルが、ソケットを皮膚で覆い、仕舞った。
「俺も痛みで止められる事を経験したけど、それ以上だな。
確かに効率が悪い。
これが続くと目的達成に進まないから、誰の為にもならない、か。
それが何れ、涙が止まらなくなって、笑えなくなる、か」
ルークは、レイシャの僅かに濡れた顔を見ながら締める。
部下達が彼を穴が開くほど見ていると、ヘンリーがやっと椅子ごと振り返った。
数秒互いに見つめ合うと立ち上がり、数歩、ルークに歩み寄る。
体温の上昇と僅かな震え。
滲み出る汗に、心拍数。
表情は変わらないが、筋肉は緊張している。
ルークは彼を分析していた。
今、独りで何かを隠している、と。
「………どうだった…」
その声もまた、怒りと焦燥、痛みに震えている。
しかし、他の者には感じ取れない程度の振動だ。
それを表に出さず封じている彼を、ルークはまじまじと観察しながら、言う。
「複雑だったよ。
人間が都合のいいものだっていうのはその通りだな。
そんなものばかりじゃないのもまた、分かるけど。
あっちに着くまでに聞いたのは、任務は誰もを傷つけ、痛みが長く続き、誰の為にもならない事。
やはり一部否定だな。
ここには成果も存在しているから、誰の為にもならない事はないだろう。
だけど、任務自体には改新の余地有りと言える。
現状、皆、手が止まってる。
それが痛みによるものならば、無くした方がいいだろう」
間を置いて、頭のバスタオルを取っ払い、肩に掛ける。
「そして、映像にあったけど、ここの皆のデータを否定された。
実際どうなんだ?
俺を操作する為のもの…なのか?」
どこか不安な表情で問う。
部下達は彼の様子に驚く反面、発言に顔を顰めている。
「…………その目に映るのが…事実だ…」
ルークは円らな瞳で瞬きし、首を傾げる。
そして
「ははっ!そうきたか。
いいよ。ちょっと待って」
微かに、レイシャの息が零れた。
ルークは一時黙り、ヘンリーから後方の部下へ目を走らせる。
その後ふと、奥の青白い部屋に重い瞼をして視線を向けた。
その先に立っていたレイシャは、更に息を震わせる。
彼の表情は、先々を見据え、真剣に考えている時に浮かべるものだと知っていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。