表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#11. Almost done 実行
146/189

[7]



#11. Almost done 実行[1] 冒頭

部下2人に連れられ、ターシャはエレベーターから強引に押し出される。


この時点からの上層部の様子をお届けします。


※約1900字でお送りします。







 青白いスポットライトが、寝そべるジェレクに淡く差し込んでいる。

骨格、各関節に仕込んだバッテリーと予備データ基盤の確認という、緻密な作業に勤しむ部下2人。

間も無く終わろうとするその手は、終始震え、幾度となくピックを落としていた。




 部下達は焦っていた。

これから何が起こるのか、曲面ガラスの向こうで液晶と睨み合う上層部を見て、不安になっている。








 ヘンリーのデスク横には、ビルが肘をついて着席していた。

頸椎のソケットには、ケーブルがインサートされている。

製造機の操縦席前の液晶に、行動履歴が表示されていた。

遭遇してきた人間やその会話の映像が、そこに流れている。






 ルークやアマンダ、ターシャの発言の何もかもが流れる最中、飛び込んだのは島の者達のやり取り。

ヘンリーは表情を一切変えず、じっとそれを眺めていた時の事。




突如、補佐2人が顔色を変え、反射的にヘンリーの両脇に飛び込んだ。




イーサンがビルからインサートを弾く様に引き抜き、レイシャは激しい衝撃音を上げながら、モニター電源を落とした。






彼女は液晶を掴んだまま、震える。

2人のその動作は騒々しく、向こうの部屋の部下が驚き、振り返る程だった。








 聞いていられなかった。

それでもヘンリーは、何処か一点を凝視したまま、動かない。

しかし、デスクに乗せられていた右手が勝手に震える。

それを隠す様に、拳を握った。




その動きを捉えたレイシャは、堪らず左手でそれを包む様に握る。

相変わらず、顔も視線も一切変えない。

だが、彼は今、動悸がしている。

震えはそれに合わせて増していった。

眼振が起こる中、無言で、激痛と怒り、焦燥を呑み込んでいく。






 彼女は全てに気付き、また彼は、気付かれてしまう。

触れるな。

何度もそう言って、彼女を突き放してきた。

だが今は、そうする気力もない。

それどころか、怯える様に、縋る様に、握り返していた。








 補佐2人の小さな息遣いだけが、その場の空気を振動させる。






 遂にバレた、なんて事ではない。

もう、見ていられない。

いつまでも、聞いていられない。

顔も名前も知らない、どこぞの者が放つ脈の無い声を。




俯く2人からは、勝手に乾いた笑みが零れた。

こんな事もまた、無くならない。

この先も、無くなりはしないだろう。

それが悉く、腹立たしい。






∴(結論)(レイシャ)

周囲が求める普通というものが上手く理解できず、叩かれ続け、立っていられなくなった。

そこに更に向けられる鋭い言葉や、取られる態度が痛く、怖かった。

また、それらを受け続ける事で、命が失われる光景を見た。

更には、生き様が歪む光景も見た。

信じ難い事に、それは他人によるものに限らず、家族によっても起きてしまう。

それが憎たらしく、許せない。

だから選択した。

向こうで順応する事から、逃げる事を。

大嫌いな者から逃れ、私にもある彼に対する責任と、犯した罪を背負い、共に生きる事を。

やっと、傍に居てあげられる。

私もまた、居たかった。

それが限られていようとも、それは私にとって、最高の利益だ。






∵(理由)(イーサン)

原型である研究所を活かした、守られた空間。

ここで、同じ目的を持ち、其々の仲間が持つ知識と技術を合わせながら、生きていく事。

同じ経験や悩みを持つ者同士で、何かを共に手掛け、共に向き合う。

やっと最高の利益を手に入れ、楽に生きられた。

向こうでは、手に入れられなかった。

その理由は考える度、いつも同じである。

俺は、馴染む事が下手だから。

俺が、間違いばかりを犯すから。

過度に敏感な感情をコントロールする術を学べず、悔やみ、妬み、憎みが増幅した。

そして、多くの人間を傷つける事しかできなくなっていた。






⋂(共通部分・(部下)集合)

家族、学校、職場の誰よりも、トップは耳を傾けた。

殆どは言葉でなく、体現してくれた。

シリアルキラー(連続殺人犯)である彼に寄り添い、匿う決断をした我々もまた、罪人。

しかし、半壊した彼によって、もう一度この地で生きてみようと思えた。

我々は、彼と共にどこまでも落ちてやる。

何故なら、どんなに歪であれ、彼だけは光をくれたのだ。

限られていたとしても、これは自分達にできる、自分達だけの決定であり、最高の利益である。






Γ⊨(論理的帰結(ヘンリー)・範囲)

既定通りでない。前例が無い。一般的でない。

リスクが高い。利益が無い。

次々現れる壁や不評の声は、絶えなかった。

俺は、当たり前の事が出来ない。

どれだけ巧みに言葉を準備し、選び、連ね、放っても、殆ど煙たがられた。

有りの儘を閉ざした生き様が、(しま)いに、憎い対象を殺す快感を招く。

そして、ただ人の為になりたかった己までも、俺は殺した。






 ヘンリーは、ただ佇んでいる。

心や目の前で巡る、痛々しく、弱々しい彼等丸ごとを、ただ凝視していた。









※名前に振り分けられた記号は、数学で実際に使用されているものです。( )内は、その記号の意味です。




MECHANICAL CITY


本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ