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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#11. Almost done 実行
143/189

[4]




「燃やさせやしないわよ!

とっとと消して!火は嫌いなの!」




やけに震えて泣き叫ぶ女に、ターシャは数歩身を引いた。

目の前の男は急に踵を返すと仲間に駆け寄り、火が視界に入らないよう抱き寄せる。

腕の中で女は眼振を見せ、酷く息を荒げていた。




「下げろ。分かったから…」




しかし女は、首だけで激しくそれを否定する。

男は汗を滴らせながら、ターシャを見据える。

未だその手に炎が揺らぐ光景を見て、苛立ちが込み上げるのを耐えた。




「その女はどうなのよ」



「彼女は顔を上げられない!

俺の返事だけで勘弁しろ!」



被さる様に怒鳴り返し、焦燥する男。

そこへ、女が堪らず声を上げた。




「あんたが正しいからってその行いが許されるなら、それもどうかしてるわ!

それは人を殺しかねないわよ!」




「あんた達はどれだけあたしを殺そうとしてきたのよ。

あたしは誘拐された挙句、治験対象になるか焼却炉に入れって脅された。

銃を向けられ、発砲もされた。

これが犯罪であると、いい加減気付くのね!

どこでどんな生き方をしていようが、忘れてはならない事はあるでしょ!」




「ああそうだろうよ!

だがそれがどうでもよくなる程のもんに駆られちまった人間だっていんだよ!

それこそ、お前みたく悠々と生きてこられている人間に潰された奴が、ここにはいんだよ!

一生闇に憑りつかれた人間が!

人をそんな風にしちまうのもまた、人じゃねぇか!

それからどう守るか、どう免れるか、こっちの勝手だろ!」




早口で感情的な怒鳴り声に、ターシャの肩が僅かに跳ねる。

その拍子に、手元に到達しかかる炎の熱が合わさった。

その熱さに思わず、彼女は手放してしまった。






 引火性が高くなっている現場に、撒かれた液の道を薄透明の炎が這う。

その素早い移動は特に空気が充満する部屋に到達すると、一気に縦筋を描き、陽炎と共に朱と青を揺らめかせた。






 思いの外一瞬の出来事に、ターシャは目を揺らし、1歩2歩と引き下がる。

端の2人も青褪め、最悪の光景に首を振って絶句した。






 一部開いている廊下の窓から、風が吹き込む。

目前に太く滑らかに伸びる炎は、空間に熱を籠らせながら揺れる。






 ターシャは慌てながら踵を返し、一目散に廊下を駆け、2人から遠ざかる。






 混合した薬が撒かれた部屋に、廊下の液体や気体を縫う様に火が流れ込んだ影響か。

低い発火音が次々と立ち始める。

離れていく背後では、消火や連絡に慌てふためく声がしていた。






 端に階段扉が現れ、慌ててそれに飛びつき、開く。






 薄暗いそこに駆け込むなり、酷い咳に襲われ、階段を下り切った踊り場で足が止まる。

ターシャは顔を両手に埋め、真っ暗闇の中で叫んだ。




 急に静まり返ったこの場で独りになる。

自分の行動や奴等の鬼の形相、それに合わさる様に、立ち込める独特な炎の画が過った。

煙さえ上げられれば、救助が来る。

誰かが気付くだろうと実行した。




 壁を伝い、顔を未だ埋めたまま、階段を頼りない足取りで下る。

その最中、視界の闇を、白くて細い何かが颯爽と駆け抜け、響いた。







―走って!―

―走れ!―




 「!?」




ターシャは顔を上げ、何も無い空間に視線を泳がせる。




アマンダの声。

だが、そこには全く聞いた事の無い、別の声も合わさった。

低いのだが、凛として通りが良い、男性の声だった。









MECHANICAL CITY


本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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