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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#10. Tracking 再回収
139/189

[21]



※1860字でお送りします。







 ヘンリーは、微かに震える右手をポケットに入れると、やっと肩越しに振り返る。

虚ろになる目を合わせる事なく、下を見たまま言った。




「………俺が何か……

そんな事……後でいくらでも分かる……」




その言葉には、部下達も疑問を浮かべる。

ターシャは腕を掴まれたまま、じっと彼を睨み続ける。




「………ご立派な信念だ……

それこそ…築いてきたもんがあっての事だろう……

…お前はそれを…わざわざ傷付ける為に…

戻って来たのか…」




「バカ言わないで!言ったでしょ!

終わらせに来た!あんた達はここまでよ!」






数秒、その場が吹き込む風だけになる。

薄暗い空間に響く、焦燥の息遣い。

そこに、床を這う様な重い声が零れる。




「………こちらにも決定事項があってな…

…俺は今更…そちらが掲げるもんに…

興味もなけりゃ…考え直す気も無い………」




考え直せないが、正か。

ターシャはつくづく歯痒くなり、顔を険しくさせた。




「ああそう!つまり、言う事が聞けないって事ね!?

なら結構!

ここに警察が来る事は、もう決まってる!

後悔するのね!」




ヘンリーは目を痙攣させる。




「………戻った狙いがそれならば…無駄だ…

…その子に時間を使え…」






 ターシャは、彼の視線の先に居るアマンダを僅かに見ると、再び鋭利な目で振り返る。




「意味が分からない…何?

その間に、あんた達は逃げるっての?

あたしをどんなにこの子と過ごさせても、変わらない!

それこそ無駄よ!」




「時は今…限られた……

お前が取るべきものは…リスク以外にある…」




アマンダはそれを耳にし、ターシャの肩に触れる。




「ターシャ、落ち着いて。

私と一緒に居れば平気だから。

トップ、彼女とこのまま下に居る」




その発言は、どこか必死になっている様だ。




「いいアマンダ。

あたしだって、決めてる事がある。

もうこれ以上、好きになんかさせない」




ターシャは、アマンダが肩を掴む手をそのままに、ヘンリーを睨む。




アマンダは、どうしたってここの者に従ってしまう。

それに流されては、組織を、ここを止められない。








 ヘンリーは視線を僅かに逸らした後、再び彼女を見据える。

分かり切っていても結局、口は止まらなかった。




「最後だ……選択は他にある……止めろ……」




「罪人の忠告なんて聞ける訳ないでしょ!放して!」




ターシャは背後の2人の腕を振り解こうと、激しく揺さぶる。

ヘンリーは、変わる様子が無い彼女をしばらく眺めてから、その背後に居る部下達に目を向け、小さく頷いた。




「来るんだ」




それを機に、共に居た男の部下がターシャの腕を引く。

ターシャは騒ぎ立てながら、ガレージの外に消えていった。








 アマンダは途中まで駆けて止まると、ヘンリーを振り返り、近寄る。

目を合わせるなり彼女は、彼の目から首、胸部と徐々に視線を這わせた。

だが、急に機械の手が視界を翳す。




どういう訳かと、彼女は首や体を動かし、それを避けようとした。

その動きに合わせ、手は器用に遮り続ける。

彼女は諦め、動きを止めた。




「………俺の解析は…するな……」




入り口付近で、イーサンが2人を見ながら待っている。

彼はその様子に、緊張の目を浮かべていた。




「トップ。

彼女やここの皆は、助かる?助かるわよね?」




ヘンリーは手を彼女の目に翳したまま、視線をゲートの向こうへやる。






挿絵(By みてみん)




 どこまでも広がる、晴れた大海原。

その更に向こうの、陽光を受けて輝く水平線を凝視する。




「………どこで…どうあれ…互いに想ってる…

そのまま見ててみろ…」




「助かるの?」




「………あと少し…かかるがな…」




彼は言い終わりに手を下ろすと、足早にイーサンを通過し、奥へ消えた。








アマンダは追おうとしたが、傍の彼を見て立ち止まり、その体に視線を這わせる。




「緊張してたのが落ち着いてる。

それも、凄く安心してる」




解析通り、彼は気の抜けた笑顔をふと浮かべた。

新たに誕生した保安官。

ヘンリーは彼女を、起動者である彼を、否定する事はなかった。








 2人はそのまま、ロビーまで進む。




「で、どうする?上がるか、下に居るか」



「ターシャ…もう会えない…?」



「いいや、ただ、今ではない。

発言からリスクを感じた。

残念だが、その上での判断だよ。

でも…

君はまだ、彼女にできる事があるんじゃないか?

きっと」



「……考えてた。

向こうに着いた時、上手く話せなくて怒鳴ってしまった…

けど、抱きしめに来てくれて、手放せなかった…

さっきも謝ってくれた。彼女はずっと優しい。

今の態度だって、私を想っての事……

下に居るわ…やる事がある…彼女の為に…」




イーサンは頷くと、彼女の腕を軽く叩いて静かに微笑み、去った。

アマンダは、自分の家がある広間へ姿を消した。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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