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※約1700字でお送りします。
「やぁトップ。
ポケットのそれ、慌てて作っただろう。
衝撃が強過ぎて、このザマだ」
ルークは電流により焦げた右肘を見せながら、ヘンリーを真っ直ぐ見ている。
彼は数秒その姿を見てから、外に目を逸らした。
そこから射し込む微かな陽光を受け、普段殆ど黒い瞳は瞬時、ブルーブラックに光る。
何処を見る訳でも無く、思い出した何かを見て、零した。
「………ああ…悪いな…」
「俺を活動的にしたのはトップなのに、そりゃ無いな。
まぁいいよ。困らせたね。
だってあの子が色々教えてくれるって言うからさ。
お陰で話す事が膨大にある。早く上がろう。
ねぇ着替えある?
ああ、そうだ。イルカ居なかったよ」
あちこちに視線を向けながら、滑らかで自然な発言をつらつらと零し、ドアまで移動する彼。
白衣の部下達は発言やその光景に、目を見開く。
「イルカ!?」
彼等の隣に居たイーサンは、呑気な報告に小さく笑った。
レイシャは密かに頬を拭いながら、ルークに向かっていく。
ヘンリーは彼を見向きもせず、斜め下を見たまま僅かに微笑んだ。
「………あれは…気まぐれだ………先に行ってろ…」
ルークは円らな目を瞬かせると、レイシャと共に奥へ消えた。
ターシャはアマンダと共に顔を上げており、組織とルークのやり取りを見ていた。
彼が颯爽と姿を消すと、アマンダの手がそっと放れ、先に下船していく。
その先にはイーサンがおり、彼女は彼の近くで立ち止まった。
ターシャはそれを見て、やっとガレージに上がる。
その姿に、上層部2人よりも共に居た白衣の部下達が目を疑った。
「また来るとはね。
まさかここで働く気にでもなった?」
よく見ると、覚醒した際に追って来た2人だ。
彼等を睨むと、ターシャは堂々と接近する。
「あんた達も、この場所も、終わらせに来た。
自首するなら今の内よ。
しないのなら、そうしなかった事を後悔させてやる」
部下2人は呆れた顔をする。
そこに、イーサンの近くに居たアマンダが近付いた。
「ターシャ何する気?何を考えてるの?」
「怒らせた事は謝る……
でも、ここでの事は許せないし、あってはならない」
力強い眼差しをアマンダに向けると、彼女が何かを言い出す前にその肩を押し、脇へ寄せた。
その先に立つのは、ヘンリーとイーサン。
しかしターシャが切り出す直前、目に飛び込んだ物に度肝を抜かれる。
血の気が引き、1歩、また1歩と勝手に後退った。
そこにはヘンリーの、晒されたままの機械の腕があった。
ターシャは思い出す。
この男に掴まれていた時の感触は非常に硬く、冷たかった。
見るに堪えない恐ろしいそれに、つい目を大きく逸らす。
それを見た女の部下がターシャの顎を掴み、強引に目を合わせてきた。
「そういうの、止めるのね」
静かに、低い声で言った。
顎を掴む手は、目と共に微かに震えている。
ヘンリーが踵を返した時、ターシャは部下の顎を掴む手を振り払い、彼を呼び止めた。
「全部あんたの指示でしょ!
こんな事が正しい訳ない!もう止めて!」
彼が足を止めると、肩越しに僅かに振り返る。
ターシャは接近し、鋭利な目を向けた。
しかし、彼は表情を変えず言葉を待ち続けている。
部下2人が彼女の腕を掴み、それ以上接近させまいと抑制した。
それでも彼女は怯まず、続ける。
「あんた、もしかして有名人じゃないの?
だとすればこんな行い、これまでの人や、あんた自身が築き上げてきたものを汚し、壊してる!
それは家族や知人が悲しむ事でしょ!?
正しい事の分別を、ちゃんとつけなさいよ!」
「おい止め
イーサンが咄嗟に彼女を止めようとするが、ヘンリーは彼の腕を掴み、止めた。
黒い背は未だ、無言のまま言葉を聞き続けている。
「あんた達がしてる事は、人としての行いではない!
人として守るべき事を、知らない筈が無いでしょ!
もっと正しい事に、能力を使うべきじゃなかったの!?」
背後で腕を掴まれながら、更に前のめりになる。
「亡くなった人をコントロールして、ここでの事や、自分達の事を良く思わせようったって、そうはいかない!
皆は、あんた達の玩具じゃない!」
部下達の焦燥が、腕から伝わって来る。
彼等は、彼女を抑える力が増す中、背を向け黙り続けるヘンリーを心配そうに見つめていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(12/5完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。