[18]
「レスポンスしろ、ルーク・ルブラン」
ビルは音声指令に切り替えた。
通信をこれまでずっと無視され続けている。
表情は無く、また、声自体は真っ直ぐだが、言葉からして苛立っているのか。
しかしルークは、首を小さく横に振る。
「声に出せよ。
これまで俺達をずっと見ている皆は人間だ。
だろ?」
彼は振り向き、愛想よく笑いながら手先だけを振って見せた。
その後、接近するビルを振り返る。
「それを挿したら、情報収集した意味が無くなる。
トップに報告してから、直接メンテを受ける。
そもそも、俺を破壊する指示は出てないだろ?」
ルークは状況に不釣り合いな清々しい声で、爽やかに話している。
これまで酷い取っ組み合いをしていながら、負傷箇所は無い。
「目的は破壊ではなく、お前の一時的な変換。
その達成の為ならば融通を利かせる。
また、メンテ時間確保は大方、不可能」
「へぇ。
でも、俺が持ってるものは少々厄介だから、手古摺ってるな」
悪戯っぽく、面白がる様に右口角を僅かに釣り上げ、2秒笑って見せた。
ビルが攻め寄った時、ボートは左に大きくカーブする。
その流れで並走していたボートが後方に着いた。
プラットフォームで立位を保つルークは、真横に掛かる係留ロープを掴み取り、ビルの首に投げて回すと、手前に引く。
大きく首から体を寄せられたビルだが、そのまま前に伸びる2本を掴むと、転倒寸前でバランスを確保する。
しかしルークの膝が顔面に飛び、俯せに転倒した。
ルークはそのまま彼の首にロープを巻き付け、首後ろを踏みつけては一気に締め上げる。
ミシミシと皮膚に喰い込み、骨格が軋んだ。
みるみる締め上げ、ロープにテンションが掛かる。
ビルはロープを握り、そのままルークごと手前に引き寄せ、転倒させた。
互いに身を起こすと、しゃがむ体勢を取る。
ビルはルークの頭部を掴み、立ち上がった。
そのまま顔面を掴むと、後方のボートに向かって頭から激しく投げ飛ばす。
前方から飛び込んできたルークを、レアールは横目で見た。
「どこまで抜け出そうとしてるのかしら、坊や。
液晶を飛び出した先でお友達ができたなら、未来も悪くないわねぇ」
ルークは船内に激しく投げ込まれた流れで後転し、床であぐらをかく姿勢になっていた。
「そう?そう…思うかい?」
平然とした顔で首を傾げていた所、再び振り向き、にっこり微笑みかけた。
彼を突き飛ばしたビルは踵を返した。
それと入れ替わる様にジェレクが、軽々と後方のボートの先端に飛び乗る。
ルークはそれに目を鋭くさせ、姿勢を変えて身構えた。
ビルは、導線を塞いでいたテーブルやシートの残骸を蹴飛ばし、変換機器を拾う。
ボートが減速し、陽光は遮られた。
その場にサウスが重々しく聳え立ち、巨大な影はボートを覆い始める。
こちらを見据える容姿は、朝でありながら、冷たく、深い漆黒を纏っていた。
ジェレクは颯爽と後方のボート内へ飛び込み、フロントを擦り抜ける。
彼は、立ち上がったばかりのルークの胸部を右から回し蹴りし、そのまま足を切り替え顔面を真上に蹴り上げようとする。
しかしルークはそれを受け止め、そのまま彼を後方へ押し返し、倒そうとした。
流れでジェレクは、足を掴んだままの彼ごと手前に引き、反動をつけて後方へ吹っ飛ばす。
そこへボートは停止し、ブザー音が鳴り響いた。
South Gateは金属の摩擦音を微かに立てながら、彼等を導いていく。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。