[15]
#09. Saving 架け橋の島 [3]
「……隙があったら…」
そう言ってヘンリーがビルに手渡したのは、黒のコンパクトデータコレクター。
細長く、USBの様にも見えるが、違った。
ジャックの形状からするに、保安官に分散して仕込まれた急所の内、予備データ基盤にインサートする事で、中のデータが放出される仕組みだ。
「今朝の様な動きはするな……
連れて来るだけに留めろ……」
ビルは、ヘンリーから手渡されたそれを左の胸ポケットに仕舞い、ジッパーを閉めた。
センターの黒テーブル。
船縁に沿って、それを取り囲むように据えられた黒の革製のロングシート。
ラウンジと呼ぶに相応しいその空間は、優に10人は入るスペースがある。
保安官達の任務は連れ戻す事に加え、隙があれば、ルークのコードを一時的に置き換える事。
新型としての能力を閉ざし、拠点からの指示を優先させ、行動させやすくする為か。
ジェレクは前のテーブルを突如、蹴り上げた。
それはルークの上半身に激突するも、テーブルはガードされた拍子に床に落下し、破損。
目撃していたターシャが声を上げ、助手席で萎縮する。
アマンダは時折、進行方向とターシャを気にしながら、2体の動きを見ていた。
ジェレクがルークに飛び掛かり、肩を掴むと瞬時に背を向けさせる。
捉えた左耳の付け根に向かって機械針を構え、耳を折り畳もうとした。
しかし、ルークが透かさずその手を振り払って向かい合い、ジェレクの腹を蹴る。
彼は反対側の縁まで吹っ飛び、そこのシートは砕けた。
だが颯爽と立ち上がると、抵抗するルークに再び接近。
針を咥え、両手を空けると左右素早く拳を打ち付ける。
その動きに合わせてルークは躱し続け、彼の小刻みに伸びてくる腕を瞬時に掴み、固定。
そこからは、鈍い金属音が立つ。
そのまま彼に頭突きを喰らわせ、その首と額からもまた機械音が放たれた。
そこへ、脇からボートが現れた。
並走しながら接近するそれから、ビルが乗り移る。
ルークは平然な表情のまま、彼に瞬きしていた。
その隙にジェレクが腕を振り解く。
左右から彼に素早く拳を入れ、動きがブレた所、胸倉を掴んで引き寄せた。
流れで胸部に膝蹴りを入れ、両肩を掴むと、砕けたシートに大きく投げ飛ばした。
その横にはビルが立っている。
更なるシートの破壊音に、ターシャはまたも悲鳴を上げた。
穏やかだったルークの異常な動きをただただ疑い、震える。
ビルは接近してきたジェレクから機械針を奪い、左手でルークの胸倉を掴み、立たせた。
しかしルークの動きは早く、彼の腕を両手で掴むと、その肘を真上に折り上げた。
ビルはそれを気にも留めず、瞬時に生まれた隙を狙う。
ルークの左耳付け根の穴を、機械針で突こうとする。
だが、それも即刻手首で阻止された。
「止めてっ!…止めなきゃいけないわ!」
ターシャはアマンダを見ながら叫ぶと、助手席から後方へ飛び出そうとした。
しかし横からアマンダの手が伸び、彼女の腕を掴んで止めた。
「分かってる」
彼女は表情こそ変えないが、ターシャはそこに、明らかな変化を感じた。
その横顔は真剣で、目が素早く動いている。
そして、争う3体に彼女は向かっていった。
「アマンダ!?」
ターシャは彼女の背を見る傍ら、誰も居なくなったコックピットに不安を抱く。
そのまま、視界の遥か先にあの地が浮かび上がった。
まだ今日が始まったばかりの、清々しい晴天に光る、機械の街。
ロン達がその後、どの様に捉えたかは分からない。
だが、あの場所が危険である事は伝えた。
ひと騒ぎ起きた事で、何かを感じた可能性もある。
とは言え、警察は直ぐには来ないだろう。
最悪の場合を考えると、今日ではないかもしれない。
もう一度、あの地へ赴く。
ならば、最大限の事をしてみせる。
ターシャは先を睨みつけると、後方の彼等を振り返った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。