[14]
藍色の海は光の飛沫を上げ、強い風に波打っている。
海面に太い亀裂を入れながら、レアールはボートを飛ばした。
直に、先立ったボートが小さく現れる。
ターシャはシートに座り、声を殺して蹲っていた。
隣にはアマンダ、向かいにはルークが無言で腰掛けている。
触れるなと言っておきながら、ターシャは今、アマンダの手を握りながら思い出していた。
自分が生きる場所では、組織が居ないとアンドロイドは維持できない。
連れ出しても、できる事は無い。
島へ辿り着くまでの間、ルークが言っていた事が過る。
更にそこへ、アマンダが怒鳴った、限られた時間という言葉が合わさる。
アマンダは未だ、手を握られたまま話す事をせず、進行方向を眺めていた。
背凭れにずっしりと身を預けた姿勢は、疲れ、気持ちが重く沈んでいる様に見える。
片や、あんなに多弁だったルークも、縁に片肘を掛けた姿勢で、足元に視線を落としている。
それは明らかに元気が無く、見てきたものを思い返している様だ。
エンジンと振動の音だけの空間。
それを、ジェレクの歩行音が切った。
ボートを自動運転に切り替えると、アマンダに視線を向ける。
彼女はふと彼を振り返ると、咄嗟にルークを見た。
ジェレクは、落ち込んで動かない彼に近付いていくと、素早く機械針を胸ポケットから抜き取る。
保安官達には、もう1つ任務があった。
下を向いていたルークだが、当然気配も行いも分かっているのか。
彼をそっと見上げると、首を傾げる。
「で、次に君が俺を止めるのか。
何でだ?そんな指示は出てないだろう?」
それに対するレスポンスは無い。
ジェレクはボートの後方に目を向ける。
間も無くビルが追い付くのを見て、任務実行に移った。
穏やかに着席しているルークだが、既に動きを見抜いているのか。
ジェレクは彼の胸倉を掴み、引き寄せる。
合わせて素直に立たされてやったルークだが、左から鋭く光る機械針が耳に向かて来る手前、左手首で阻止。
互いの手が押し合う事で、軋み音が立ち始める。
「ルーク!?」
ターシャの慌てる声に、アマンダは彼女の手を引いて助手席へ誘導した。
その後、コックピットの傍で彼等を見る。
「ターシャ座ってて。絶対後ろに出ないで」
ルークは空いた右手でジェレクの左肩を掴み、引き離そうと体重をかけていく。
「いいよ。何だか妙な感じだったしね。
動いていた方が、思い出さずに済む。
それに、今ここで先に試しておけば、後の実験で効率がいい」
そう言って悪戯に笑みを浮かべる彼は、まるで憂さ晴らしに喧嘩でもしようという感覚か。
そんな彼にジワジワと押されていくジェレクだが、体勢を整え、押し返し始める。
ジェレクは隙を見て、ルークの腹を1発蹴った。
鈍い音と共に、ルークは床に激しく転倒。
ジェレクはサングラスを仕舞うと彼に跨る。
左手で彼の髪を引っ掴み、その首を激しく右に向けさせ、機械針でシャットダウンの穴を狙った。
しかし、そう容易く決まる訳がない。
ルークは首を横に向けられたままだが、彼の機械針を握る右手を掴み、阻止してみせた。
首から軋み音を上げながら、正面を向き始める。
レアールは、ボートを並走する形で接近させる。
後方スペースでは、ビルが船縁に片足を乗せ、屋根を掴んで乗り移る準備をしていた。
ルークはジェレクの両手首を掴み、更に抵抗する。
ジェレクの手首から軋み音がし始めた。
真横に向けられた首と、掴んだ手にも更に力が加わり、ルークの顔はやっと正面を向く。
ジェレクの腕から更に骨格の音が立つ。
ジェレクは破壊を回避すべく、彼を振り解き、立ち上がった。
ルークはそれに合わせて身を起こし、しゃがんだ姿勢で彼を上目で睨む。
ジェレクが再び掴みかかろうとする直前、ルークは中央に据えられたテーブルの奥へ回り込んだ。
先程まで、ターシャとアマンダが座っていた位置だ。
彼はジェレクに目を向けたまま、ジワジワと横歩きし、出方を窺う。
その動きに合わせ、ジェレクの目も動く。
目を逸らす事無く、右手の機械針は指先で1回転して構えられた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。