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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#10. Tracking 再回収
130/189

[12]



※約1800字でお送りします。


#08. Reboot 脱出 [6]


人の観察をする様になると、気付けば、

向かう場所の先々にあるガラスや鏡に目が留まる。

そこに映る自分が浮いていないか、

不安で確認する癖がついた。



[7]

父は名声と会社を守るべく、

警察と裏で取引をし、事故を隠蔽。

ヘンリーは父から事故当時の内容を淡々と聞かされるが、どうしても腹落ちしなかった。

シャルに対して殺人未遂を犯した息子の話を、父は聞かなかった。

父の口から改めて事細かに出来事の内容を聞けず、断片的な記憶を頼りに自ら調べ、事故ではなく事件であるとヘンリーは捉えるようになった。







「………散々…見てるだろ…」



完全な同類ではないが、アンドロイドと然程変わらない義手。

しかしイーサンは、見た事も無いそれに釘付けになっていた。






 わざわざ晒した事など無い。

また、生い立ちやこの身に起きた事など、碌に打ち明けた事も無い。

思い出す事で、抗えない恐怖と殺意が湧く。

それこそイーサンに似て、体を持って行かれてきた。




 利き手を失った事故。いや、事件だろう。

その事実を、まだ知らないままだ。

残っているのは、断片的な当時の記憶のみ。






 ヘンリーは、上腕の装着口に輪状に仕込まれたラダーロックを解き、僅かに引き離す。

筋電センサーが離れた事で、光は消えた。

イーサンは驚きながら、外れたそれを手に取る。




 腕力、握力、指力を脳の伝達を受けて動かし、場合に応じて力量変換する仕組みだ。




「まだ軽くできるだろう?AIも付けたら?」




着用する者の使用パターンを学び、そこに組み込まれていく知性を磨き、癖や伝達も滑らかになる可能性がある。




しかし、オリジナルの仕組みを省いても、最新技術らしくない。

改良の余地だらけにも関わらず、これまで着手してこなかったのは、それよりも優先すべき事が常々あるからだ。




「……もういい……

そいつを長く…見たくない……」




イーサンは数秒、ヘンリーの引き攣った横顔を眺めた。




失った際のショックを解消できていないまま、ここまできている。

それによる発作など部下には関係無く、ものを含めて、見せるものでもない。

直らないならそれでいい。

だから早く戻してくれと、顔を背けたまま、黙って願っていた。




 イーサンは義手を膝上で縦にし、やっと最後のパーツを填める事に成功。

その後、瞬きを忘れているヘンリーに静かに装着した。

それが戻ってきた事で、彼は数秒、震える瞼を閉じる。






 「いい所なんて…

自分がここと思った所に過ぎないわ…」



レイシャが近付いて来ると、イーサンが振り返る。



「ここでずっと生きられるなら本望だな。

そうしてる内に、俺達みたく、起こすとかって言う様になるか?」



どこか遠くを眺めながら、彼は小さく笑いながら零した。



「死ねばどこかへ行っちまうって言うんなら……

どこなんだよ……」





そんな云われもあるが、レイシャは肩を竦める。

興味が無いと言いたげに、静かに息を吐いた。

僅かだが、今やっと一息つけている。




その最中、静寂を微かな金属音が切った。

ヘンリーは左手を浮かせ、ゆっくりとイーサンに伸ばしていく。

2人はじっとそれを見ていた。






 伸ばされる手は徐々に人差し指を突き出すと、イーサンの胸元を小さく叩き、止まる。



「…………良くも……悪くもな……」



静かに囁く様に言うと、手は戻っていく。






 誰かの胸に残る。

その中に焼き付く様に、一生残り続ける。

例え遠くに居り、それまで考えてこなかった存在すらも、急に近付き、刻まれる。

最悪も含め、忘れる事は無い。

彼はそれを、身をもって知っていた。






 ヘンリーの視界の中で、レイシャの手が数回揺れる。

覗き込んできた彼女と、目が合った。



「その変換、もう外したらどう…」



静かに告げる顔は、不安に満ちていた。

都合のいい様に手掛けて以来、そのままである。

彼女の顔を見てから、イーサンは尋ねた。




「威力の調整はできるんだろう?

最大、どれくらいまで出せるんだ?」



「………10倍…」



「!?ゴリラじゃん…」



平均腕力や握力からして、それに近いと瞬時に発言したイーサンに、レイシャは青褪める。

ずっと傍に居ながら初耳だった。

自らが鍛える事で、更に威力は増してしまう。

それだけの力を叩き出したい程のものに、駆られてきた。




「今度作り変えてやるよ。

そうすりゃ、もっと楽になるかも」




ヘンリーはイーサンをそっと振り返ると、力無く微笑み、再び正面のガラスを向く。






 心の奥底を擽ってくるこれは、何だったか。

そっと首を傾げ、考える。




恥ずかしい、か。




正面のガラスに薄く映る自分の顔と、両脇に居る2人の顔に、視線を往復させる。

何の違和感も無く、馴染んでいる。

こんな時間を、自分の様な人間が過ごしていいものなのか。

変わり果てた、有りの儘の自分。

それはこんなにも荒み、汚れ、黒くなったというのに。




「…………そりゃ……どう…も……」






 感謝をする事もされる事も、相応しくない。

殆ど口にしてこなかったが、言っておくべきだった。

こんな大罪人に彼等は寄り添い、笑うのだから。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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