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#09. Saving 架け橋の島 [5]
「坊主…俺の女将さんみたいな事言うな?
男ならもう少し夢を持て!
研究や数字もいいがな、もっと、本当に目に見えない物について考えてみろ」
ルークは船縁に肘をつき、周囲に目を走らせてから切り出す。
「舵取りがなっていない、手間ばかり取らせ、部下を困らせる下手クソな、とんだ変わり者の長という印象。
そして、その長の研究所から俺達が来て、ここでの騒ぎを目の当たりにし、管理がなされていない俺達が不憫であるという印象を得た」
周辺が静まる所、彼はそのまま、ロンがしていた様に身振り手振りを加え始める。
「この2つの強い印象によって生まれた感情は、怒り、悲しみ、否定的、か。
それらによって、大半の出来事や結果が決定されてしまう。
更にそこに重なるのは、実際に研究所を行き来する客や、長く共に居る信頼ある仲間による情報。
それらによって想像できたものが、事実を作り出していく、か」
つらつらと並べ立てられる言葉に、特に元オーナーは顔を歪めている。
「強く記憶された2つの印象が生まれる最中にも、時間が流れている。
その間、他の情報も確実に存在する。
そこには、より確かなものが含まれている可能性もある。
にも関わらず、その部分に着目したり、追求する事をほぼしない。
何故ならもう、その必要は無いんだろう。
繰り返し接点を持つ事で信頼が生まれ、好感を持つようになった者が提供する情報であるが故に、素直に聞き入れられるから。
そしてまた、あの施設には噓つきな連中が居ると、既に決まってしまっている。
彼等が嘘つきだと言うならば、何も彼等に限っての事じゃない。
君達もまた、自由な想像で事実をでっち上げる嘘つきであり、同じ人間だ」
言い終わりの声は、これまでよりも低くなった。
彼は目を伏せ、数秒余所見をする。
目の前の元オーナーやその周囲は、首を振っていた。
そうでは無いと言いたげに、何をどの様に説明しようかと慌てている。
ルークは顔を上げ、瞼を少し落とした顔を向ける。
「今この場で浮上した多くの発言は不確かであり、曖昧で、都合がいいな。
随分と自然で、慣れてる様子となると、今までもそうしてきたか。
ならば、この先もそうするのか」
ルークは、何も返さない周囲の反応を数秒確認した後、微笑んだ。
「早急に広めたい、受け入れてもらいたいという気持ちが強くて、興奮してるな。
そんなに急がなくても、落ち着いていいよ。
情報の変化は、常に目まぐるしいからね。
君達こそ、目に見えないものについて、考えればいいんじゃないか」
最後は、棒立ちしていたロンに向かって軽く手を向けながら、静かな笑みを浮かべた。
途端、ルークがシートでバランスを崩し、呆然とするターシャも床に倒れる。
ジェレクがボートを発進させ、みるみる遠ざかった。
ターシャは大慌てで船縁に飛び付き、前のめりになる。
落ちかかる彼女の背を、共に乗っていたアマンダが背後から透かさず掴んだ。
その脇に居たルークもまた、ターシャの腕を掴んで支える。
その流れで、彼は叫んだ。
「ああ!そこのじいちゃん!
血圧が上がってきてるから、それ以上怒らない方がいいよ!」
ボートは更に加速し、あっという間に小さくなっていった。
言い包められた事に再び焦燥を見せ始める元オーナーだが、何かを言いだす前にレアールがコックピットで呟く。
「こんな事は無くならない。
対処していては切りが無い。そうねぇ…確かに」
彼女は素早く、陸に居る彼等や、その発言の数々を見渡した。
「それらと共存できるようになる為に、変わらなくてはならない……
どちらか一方だけではなく、双方がそうするべき…だった…」
右手の爪を弄りながら、何かを思い出す様に話している。
その後、真顔で彼等を振り返ると、右口角だけを上げ、奇妙な笑みを見せた。
ビルは船縁にやっと乗り、乗船する。
その足取りは強く、怒りを抱いているかの様だった。
「密に接する者ならば、価値がある情報も得られ、そう疑う事も無い。
信頼があるなら、結構だろう。
しかし先程のお宅らの様子じゃあ、殺しや死が増えるファクターになり得るな。
システムの改良を推奨する。
そうだな。試しにAIでもぶち込むか」
彼が言い終わるのが先か。
レアールがボートを発進させた。
島の者達が次々叫んだが、彼女は速度を上げ、先のボートを追う。
長い様で短く、しかし、実に中身が濃い時間だった。
ロンは、小さく消えていくボートを眺めながら、顎に手を触れ、考えた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。